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たいせつでたいせつで(41)

 「それじゃあ、行って来る。今日は私もジュリも遅いから、先に寝なさい」
 クーはうだうだと渋りながらやっとキョーコの夕食を諦め、かわりに作ってもらった腹ごまかしの弁当20+1人前を抱えて午後からの仕事に出かけて行った。ちなみに+1人分は、はしこい少女がマネージャーさんの分よと言って渡したのだが、ちゃんと彼の手に渡るだろうか。
 そうしてヒズリ家の書斎には、妙に白ちゃけた静謐が漂った。開けっ放しの窓でカーテンが揺れる、溜め息のようにあえかな音さえはっきり聞き取れるほど。
 そわそわと出たり入ったり用事を数えるキョーコに、クオンは少し困った顔で読んでいた雑誌を閉じた。
 「キョーコちゃん」
 「な、なあに?」
 「さっきの続き、そりゃ俺は聞きたいけど。でも、君は君の言いたい時に言いたいことを言えばいいんだよ」
 わずかに忍耐を潜める優しい声。ぴたりと動作を止めたキョーコが顔を赤くする。
 「あ、えっと…
 「あの、ごめんね。私、どう言ったらいいのかなって…もう少し、考えたくなったの」
 「いいよ。でも、答えが出た時は俺に一番に教えて」
 「う、うん。
 「あ、あのじゃ、私、お夕飯の支度始めるから…」
 少女はますます赤くなり、またそわそわ出て行こうとする。
 「まだ早いよ」
 ぼそりと言われて眉を下げた。
 「でも、あの」
 「ここにいて」
 少年はやや強く言い、ベッドサイドの椅子を指す。少女はのてのてとそこに近付き、クオンと目を合わせないまま腰を下ろした。
 「キョーコちゃん、どうして今日は俺から離れようとするの?」
 「えっ!?そんな、そんなことない。私はただお夕飯…あ、クオン、クオンもクーパパみたいにいっぱい食べるの?」
 「まさか…食べないよ、俺は普通。病院で見てるだろう?話逸らさないで」
 ぴしりと言われて、キョーコが情けない顔をした。クオンは小さく溜め息をつく。
 「…やっぱり、俺は君を追い詰めてる?」
 少女は忙しく瞬き、ぶんと首を振った。
 「違うの!!」
 「じゃあどうして?」
 ケガ人はベッドから身を起こし、もぞもぞ端に移動してキョーコと向かい合わせになるように座る。静かに少女の肩に顔を伏せた。
 「ねえ、キョーコちゃん。ちゃんと、待つから。君の言葉も、気持ちも…時間も。君が嫌なら、許してくれるまでキスするのも我慢する。だから、俺の傍にいて。
 「俺を、守って…」
 「えっ…」
 信じられない、と言いたげにキョーコが目を瞠る。
 「クオンを、守るの…?私が…?」
 「そう」
 クオンの声が低い。呟くように、祈るように。
 「俺は、君がいれば大丈夫だから。幸せだし、元気になれる。でも、君がいないと駄目なんだ」
 「まっ待って、そんなはずない。私を守ってくれてるのはクオンだって、さっきも言ったばかりじゃない」
 「違うよ。…違うんだ。
 「       むかし、俺が言ったことを覚えてる?俺は、自由に飛べないって。父さんの手の中から抜け出せないって言ったこと」
 「お、覚えてるわ!私、コーンの言ったことぜんぶ覚えてる。ぜんぶ大切にして来たもの!!」
 「ありがとう…」
 少年は微笑とともに顔を上げ、少女の頬に唇を近づけようとして止めた。思い切るように身を起こす。
 「あの時、ね。君が俺のために泣いてくれて、俺はすごく救われたんだ。そんな風に、俺だけの立場に立ってもらったのは初めてだったから。世界でたった一人の味方を得た気分だった…」
 (だから、別れる時に連絡先は教えなかった。君に、そのままでいて欲しくて。たった一人の味方が、いつもいつまでも味方のままだと思っていたくて)
 彼は言わぬ気持ちを揺れる瞳の底に沈め、じっと彼の顔を見上げているキョーコの頬を撫でた。
 「今でも、乗り越えきれてはいないんだけど」
 少し恥ずかしそうに目を伏せたクオンは、指に触れるやわらかな感触に勇気付けられて言葉を継ぐ。
 「あの時と…それからも俺には、俺にとって辛いことがたくさんあって、周りの全部が敵に見えて、だんだん、辛さの分だけ憎むようになって行った。
 「もし君がいなかったら、もう一度君に出会わなかったら、俺は今でも何も大事にできないまま周囲のすべてを憎んで、憎み続けて…今頃どんなことになってたかわからない。でも君が現れてくれたから、昔のまままっすぐ俺を見てくれたから、俺は…すこし、目が開けた気がしたよ。そうしたら何だか、周りも変わり始めた。不思議だね…」
 キョーコちゃんはまるで最強万能のお守りだよ、と微笑むクオンに、キョーコはくしゃりと小さな顔を歪ませた。
 「え、キョーコちゃん!?」
 「私っ…」
 涙を堪えようと息を詰め、少女は唇を震わせる。
 「守りたいって、思ったの。あの時。クオンがこわい人たちに乱暴されて…こ…殺されちゃうかもって思って…また、私の、せいで」
 「違う!」
 おそらく重複する二種の記憶に、彼女は苛まれている。しかしそれはどちらも、彼女のせいなどではないのだ。遮ろうとするクオンに、キョーコは弱々しくかぶりを振った。
 「こわくて、こわくて…お、お母さんの時も、そうだったの」
 少年は碧い瞳に懸念を浮かべ、じっと少女の言葉を聞く。しかしキョーコは、怯え震えながらも瞳を彼に据えている。彼女が見失うまいとしているものが自分の瞳にあるのか…クオンはそうであって欲しいと願いながら視線を返し、そっと小さな手を取った。



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 色々と向き合わねばならないもののある二人ですが、一人じゃないことを温度差はあれ自覚して来た模様です。
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