たいせつでたいせつで(45)

 「行って参ります」
 少女が運転席に伸び上がってクーの頬にも可愛いキスを施すから、クオンは歯噛みする思いだった。自分が入院している間に、そんな習慣をつけさせるとは。両親のちゃっかりぶりにむかっ腹が立つ。八つ当たりだとは百も承知だけれど。
 「ああ、二人ともしっかり勉強しなさい」
 とお返しのキスをしようとする父からキョーコを奪取し、器用に片足を漕いで車を降りた。
 「わかってるよ。ね、キョーコちゃん」
 「ク、クオン?」
 少女は戸惑いながらも苦笑と共に手を振るクーに応え、車が発進して行くのを見送った。 
 「行こう、キョーコちゃん」
 「あ、うん。クオン、私カバン持つわ…」
 「大丈夫だよ」
 平気な顔で肩がけのカバンを揺らし、少年はキョーコの歩速などよりよほど速く松葉杖をついて行く。少女が慌てて小走りに従うと、それに合わせて速度を緩めた。
 それにしても、キョーコの歩みがのろい。
 「緊張してる?」
 尋ねるクオンに、彼女はへのへのと頷いた。
 「…う、うん。なんか、みんな見てる気がする…」
 気がする、どころの騒ぎではない。明らかにガン見されている。クオンと一緒に歩き出してから、ずっと。
 慣れているのだろう、それを気にしないと言うより気にも留めていない様子で、松葉杖の少年は首を傾げた。
 「俺の父親が誰かはみんな知ってるから、一緒にいたキョーコちゃんが気になるのかも」
 そうかなあ、という顔で少女は黙っている。みんな、クオンを見てる気がするんだけど。だって、その次にキョーコに向けられる(主に女の子たちの)視線が痛い。
 そしてその感覚には、少しばかり覚えがあった。日本で。幼い頃からちょっと様子のいい幼馴染の側で。彼の近くにいたキョーコは妬まれて嫉まれていつでも仲間はずれだった。
 アメリカに来てからはそれはなくなっていたのに、また、あんなことになるのだろうか?
 顔を曇らせる少女の顔を、クオンは足を止めて覗き込む。
 「キョーコちゃん?どうしたの」
 「え…」
 「大丈夫、じき慣れるよ。もし何かあったら、すぐ俺に相談して」
 少年が慰めるように微笑う。その時周囲で起こったさざめくような悲鳴に、キョーコはああやっぱりと溜め息をこぼしそうになった。駄目だ。クオンが心配する。少女は強いて笑顔を作り、まっすぐに少年を見返した。要は、自分の立場などなにほどでもないと周囲に悟らせればいいのだ。
 「ありがとう、ございます。でも、何でもないの…です。クオンさんの言う通り、きっとすぐ慣れる…ますよね」
 クオンの眉が跳ねた。
 「キョーコちゃん…?何、その言葉遣い」
 「えっ!?」
 キョーコは、いつも自分を庇い守ってくれる人の明らかな苛立ちの兆候に驚いた。心が勝手に萎縮しようとする。
 「あの、だって」
 オロオロと言葉を探す姿に、少年は少し傷ついたような声で言った。
 「俺と距離、置きたいの?」

 

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 やっとこさ学校編始まりました。キョーコのトラウマをいっこいっこ潰すべく、頑張るのだゾ少年!!はっはっは。
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