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あした世界がおわるとしても(2)

 「キョーコちゃんが…」
 担当俳優がどれだけの思いをその名の主に傾けて来、現に傾けているかマネージャーは知っている。なにしろ本人よりも先に蓮の中に生まれた思いに気付き、それを育てさせるべく煽り続けた張本人だ。
 二人が交際を始めた時にも誰よりも喜び祝福し、以来、それまで同様どころか以上に協力することひととおりではない。
 だから知っていた。
 止められない、と。キョーコの姿を目にしない限り、蓮は安心しないだろう。
 「社さん」
 俳優は呼びかけたのではなかった。『俺の意思は伝えましたからね』と確認したのだ。じゃこれで、と背を向けようとする蓮を、社は慌てて呼び止めた。
 「れ、蓮っ」
 「何ですか」
 焦りを滲ませて振り返るのへ、彼は肩にかけていたバッグを差し出した。
 「これ持ってけ。水とタオルと救急セット、ラジオも入ってる」
 「…ありがとうございます」
 一瞬目を瞠った俳優がバッグを受け取って礼を言う。自分の鞄から財布や携帯やいくつかのものをそちらへ移すのへ敏腕マネージャーはふと笑って手を伸ばし、邪魔だろうと不要になった方の鞄を預かった。大きな背中を押し出すようにぽんと叩く。
 「携帯通じるようになったら連絡入れろよ!あと、キョーコちゃんも心配だけど、お前も怪我なんかしないように」
 「気をつけます」
 「うん。
 「キョーコちゃんはきっと無事だよ。あの子、ちょっとやそっとじゃへこたれないしな」
 「そうですね…」
 苦笑する蓮に手を振り、社はしばし佇んだままその背を見送った。




 街はひどく静かだった。
 いまだに大気が低く唸るように鳴っているが、普段ならそこここに満ち溢れているはずの交通や生活の物音が一切ない。それがまるで死の国を一人さまようように思え、蓮はかぶりを振って心もとなさを遮断した。
 気の急くままに速足で歩くうち、じきに川に行き当たった。橋は津波の影響で遡行した水に浸され、路面には水溜りと細かなひびが多数浮いている。人間ひとりが渡ったところですぐさま崩れ落ちることもなさそうではあるが、水の力とは恐ろしいものだと蓮は実感した。知識としての災害と実際に目にする被害との、なんと印象が違うことだろう。
 泥色の水は護岸工事を施した土手を覆うまでに迫り、対岸近くの橋げたに引っかかっているボートの残骸らしいものを引き入れようとしきりに揺すぶっている。鼻先に潮の匂いを感じ、あのボートはどこから流されて来たのだろうと蓮は思った。
 濁流に吸い付けられそうな視線を努めて足元に向け、慎重に傷んだ橋を渡る。
 渡りきった先では、道路と橋とを繋ぐ鋸歯型の金属がめくれ上がるようにずれていた。俳優は長い脚を利してそこを跨ぎ越え、小さく息をつく。たった10分も歩かないうちに、ひどく神経が磨り減った気がした。
 しかし心中の焦慮に引きずられるまま歩みを再開する。キョーコを腕に収めるまでは、せめて無事を確かめるまでは安心できない。もちろん、無事を信じてはいるが。
 歩きながら、ポケットから携帯電話を取り出してみた。メールも通話も着信なし、と確認したところで電池残量が心もとないことに気付く。さきほど、電波状況が最悪な状態で何度も通話を試みていたのがまずかったか。
 蓮は周囲を見回した。
 数ブロック先の角に、コンビニのポール看板が見える。あそこで電池式の充電器でも手に入らないかと足を速めた。おそらく従業員はとうに避難しているだろうが、レジのあたりに代金を置いて行くことにしよう。
 割れたアスファルトをあるいは避けあるいは跨ぎ、蓮はコンビニに近づいて行く。駐車場に差し掛かった時、店舗前面のガラスが悉く割れているのに気付いた。さらに近寄り、それが必ずしも地震による被害だけには見えないことにも。
 通りすがりか狙った上か、不埒者が火事場泥棒を働いたのだろう。ガラスは内側へ向かって飛散し、店内は手ひどく荒らされている。ことに食料品の棚などは総浚いにされているから、一人や二人の犯行ではないのかもしれない。
 現実問題として食料の確保は重要であるが、入手手段が盗みでなくてはならないとは到底言いがたい。人間は浅ましいものだと嘆息が洩れた。
 だがとにかく、彼がこの場にいることを誰かに目撃されればあらぬ誤解を受けるに違いない。早々に目的を達し離れようと店内に踏み込んだ。
 幸い、2列目の陳列棚に目的のものを見つけた。充電器とそれに使える電池をいくつか取り、こじ開けられ小銭しか残っていないレジに代金を入れておく。
 コンビニを出て、再び道へ戻りながら携帯を充電器に接続する。ついでではないが試しにキョーコの携帯番号にかけてみるが、やはり繋がらなかった。
 蓮は充電中であることを示して点滅するランプを見つめて吐息を噛んだ。小さく呟く。
 「信じてる…」
 無事でいることを。いざとなると相当に腹の据わる彼女が、突発事態にもきちんと対応していることを。きっと、逆に蓮を心配しているのではないか。
 「信じてるから」
 無事でいてくれ。
 希望と感情と信頼と祈りと。矛盾などはどうでもよく、ただ彼はキョーコの笑顔を心に描いた。




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 んー…ネタのせいかちょっと文章が固めですかね?
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