スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

このそらのしたで

 同じ空の下に、
 君がいる。



 「暑いな…」
 タクシーを降りた途端、べっとりした暑気が肌にまとわりつく。蓮は呻くような呟きを洩らし、白っぽくかすむ空を見上げた。
 地上に目を戻せば、大気中には眼の奥に突き刺さるような照り返しの光が散りこぼれては陽炎を乱している。
 それにしても、この国の夏の湿度には閉口する…と長身の俳優は短く嘆息した。
 おかげで肌湿度は故国にいた時よりも保ち易いようではあるが、夏の日中に外歩きをしていると、体よりも神経に応える。
 あの夏はどうだったろうか、と巨大な門の前で足を止めて彼は思った。インタホンのコールボタンを押し込み、返答があるまでの短い間に、脳裏をかすめる遠い光を感じる。
 もう、7年も前。古い、盆地の街の片隅だった。ハレーションを起こす白い石の河原で、彼はやはり暑さに負けて。子供だった分体力も足りず、ひっくり返ってしまった。
 『大丈夫!?ねえ大丈夫!?しっかりして…』
 涙を浮かべて覗き込んでくる大きな瞳…
 繋がったインタホンに来意を告げると、じきに錬鉄の門が重々しく開き始める。
 蓮は軽くかぶりを振り、ゆったりした足取りで門の内へ歩み入った。




 「合宿免許?」
 対面のソファで、焼き杉の煙草盆を引き寄せたローリィ宝田が軽く眉を持ち上げる。今日の衣装はバリの王族風、鮮やかな原色使いが実にはなばなしい。
 「ええ。アメリカを15で出て、まだ運転免許を持っていませんから。この際、18になるのを待って日本で取ろうと」
 「ああ、まあ普免がありゃマイカー移動もできるしな」
 雇用主の言葉に蓮は頷き、持参のパンフレットを差し出した。
 「そうなると戸籍上の姿で取らざるを得ませんし、毎日のように髪色を染めたり戻したりも面倒ですから…こういうので一気に取ってしまおうと思うんです」
 「なるほどな」
 パンフレットをぱらりとめくり、芸能事務所の社長は口の端で煙管を揺らす。
 「いいんじゃねえか?半年近く先のことなら、仕事も調整できるしな。思うようにしろ」
 「ありがとうございます」
 あっさり許可を得て、俳優は軽く頭を下げた。
 「ふん。ま、車に乗り出しても、違反や何やでつかまって免許証出すようなことにならんようにしろよ」
 「重々気をつけます」
 苦笑する蓮を少時眺め、ローリィ宝田は話題を変える。
 「時に、お前大学へは進まねえんだって?担任から勿体ねえって俺んとこに電話があったぞ」
 「お手数をかけてすいません。日本での保護者は社長になってますから…」
 「手数ってほどでもねえが。保護者だしな?進学するにしろ仕事を取るにしろ、事務所としてはどっちでもバックアップはするから結局はお前次第だっつっといた」
 「ええ…俺は、進学より仕事を増やしたいんです。やっと、積み上げ始めてる手ごたえを感じ始めたところですから」
 蓮はしっかりした口調で答える。揺るぎのない様子を見て取り、名物社長はアクセサリーをジャラリと鳴らして頷いた。
 「わかった。今後のことは俳優部でよく相談しろ。あと、高校卒業と同時にマネージャーもつけるからな」
 「マネージャーですか」
 「要らんとかいうなよ。お前は生活上にいくつか難点がある。今後より多忙になるなら、尚更フォローする人間は必要だ」
 「はあ」
 生返事を返す蓮に、雇用主は小さく笑って見せる。
 「心配するな、既に人材は発掘してある。今、あっちこっちの部署に回して修業がてら人脈作らせてる所だ。お前のいい女房役になるだろうよ」
 女房役ねえ、そういう日本的表現はなかなか慣れないな…そんなことを思う蓮に、ローリィは不意に真顔を向けた。
 「あいつらも、ちったあ安心するだろう」
 問うまでもなく両親のことだと悟り、蓮は重く黙り込んだ。
 そんな様子を眺めやって溜め息をこぼしつつも、少年の彼を日本へ連れて来た"人攫い"は思い切るように膝を叩く。
 「ま、何だ。お前もよくやってる。俺にしても、正直なところお前がこれほど頑張るとは思ってなかったぞ。なにしろ日本へ来る前のお前と来たら、まるっきり生気を失って人形みたいだったからな」
 「それは…日本に来たら、色々と思い出すことがあって」
 「うん?」
 反射のように答えていたが、更に問われて蓮は口を噤んだ。何となく、このラブ・モンスターにはそれ以上の情報を与えたくなかった。
 「とにかく、頑張るって気持ちをですよ」
 適当にごまかし、話は終わったとばかり立ち上がる。
 「それじゃ、俺はこれで失礼します。色々とご面倒をおかけしますが、よろしくお願いします」
 「おう。じゃあまあ、とにかく頑張れや」
 にやりと笑う顔に、何か勘付かれたかとかすかな狼狽を覚える。しかし俳優は、それをおもてに出さないまま長上の許を辞した。



 ドアを出れば、再び湿った暑さがどっと押し寄せて来る。それと同時に、先程置き去りにしたイメージが脳裏に蘇った。
 濡らしたハンカチを彼の額に当ててくれる小さな手、彼を気遣って何度も呼びかける愛らしい声。
 何の欲も背景もなく、まっすぐ彼に向き合ってくれた幼い女の子。泣き虫で、だけど負けず嫌いで頑張り屋で。
 自分だってつらい思いをしていたくせに、彼だけのために泣いてくれた。
        この空の下に、君もいる。また泣いてるかもしれない。でもきっと、頑張ってる。
 だから、俺だって頑張れる。
 車回しに沿って門へ向かう小径へと足を踏み出しながら、蓮はそっと呟いた。
 「大丈夫だよ、キョーコちゃん。
 「…ありがとう」



web拍手 by FC2


 達磨様より340000打に戴いたリクにて。
 「ローリィに連れられて日本へ来た久遠が敦賀蓮としての役作りに励む」
 …って、あれ?なんか、違う…けど…
 も、貰って下さいますかしら、達磨様;;
関連記事
スポンサーサイト

コメントの投稿

非公開コメント

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。