たいせつでたいせつで(73)

 「…あ」
 クオンの吐息が揺れる。
 「だけど…俺には、まだ父さんを越える力なんて」
 「たりめーだ、バカ」
 言いかけた言葉は、至極あっさり斬り捨てられた。
 「誰がお前に今すぐクーを超えろつった。大体、自分の親父の最大の魅力ってヤツが何なのか、わかってんのかお前は」
 「最大…ですか」
 容姿?演技力?身体能力?それとも…考える目をするクオンに、マカナンはやれやれと嘆息する。
 「ズルだけど教えてやる。未完成なトコ、だ」
 「未完成?」
 繰り返す声に驚きの響きが混じる。あの父が、未完成。そしてそれが魅力だと、この狸親父は言うのか。
 「あいつはずっと成長し続けてる。明日は何をやらかすかわからねえ。そういうトコだな」
 「ああ…」
 それならわかる、とクオンは納得した。
 「だから追いつき追い越せなんてのは並大抵のことじゃねえ。今のお前にそれを求めるってのは、夢じゃなくて妄想だな」
 マカナンの言葉に複雑な顔をしたが、しかし少年は反論しなかった。現状、その通りだと誰よりも自分が知っている。
 「それなら俺に、何をさせようって仰るんです」
 無意識に敬語を使ったことには気付かず、まっすぐに相手の目を見た。マカナンが小さく笑う。
 「言ったじゃねえか。親父の影を抜け出すんだよ。ぜんたい、親父の影響力に一番捉われて来た、現に捉われてるのはお前だっつんだ」
 「…え」
 「ところが、な」
 両手を開き、マカナンは力強く頷くような動作をした。
 「ここへ来て、お前は自分だけのものにしたいってモンを見つけた。じゃあもう、自分の目でものを見るべきじゃねえのか?」
 「か、んとく…」
 「ヘンなトコで切るな。何だよ、その意外そうな顔は。くそ。俺だって信じらんねえよ。何だってヘボいカウンセラーの真似なんざしてんだ」
 ぼやく男を、少年はますます奇異の目で見る。本物だろうかと疑う眼つきだった。
 「くっそ…」
 片手で顔を仰ぎ、マカナンは低く毒づいた。
 「まあ、そんなわけでな!!」
 背後に聞こえた足音に、クオンが半分振り返りかけた時だった。体裁の悪さをごまかすように、彼は不必要に大きな声を出す。
 「ごめんなさい、ちょっと迷っちゃって…」
 「共演者は、クーだ」
 『…え』
 マカナンとキョーコの、次の瞬間にはクオンとキョーコの声が重なる。さっとマカナンに視線を戻す少年の背後で、甲高い声が弾けた。
 「本当ですか!?クオンだけじゃなくて、クーパパとも一緒なの!?」
 キョーコが踊りだしそうに大喜びしている。
 このタイミングを待って、わざと映写室に入らなかったな…とクオンはお腹の黒い映画監督をねめつけた。
 「もう交渉したんですか?父は忙しいし、高いですよ」
 精一杯の反駁に、マカナンが鼻の先で笑う。
 「そんなもん、お前と嬢ちゃんに釣られてノコノコ出てくるに決まってんだろ。ギャラなしだってOKしかねん」
 「……」
 確かに。と思わせられる言葉だった。あの父なら。
 黙り込む少年をニヤニヤ見てから、映画監督はちょっと表情を整えてキョーコに視線を移した。
 「そういうわけだから、よろしくな、嬢ちゃん」
 「え?」
 「"クーパパ"に、おねだりよろしく」
 「お、おねだりって、そんなこと」
 「一緒のお仕事したいの、って可愛く言ってやんな。一発でオチるって」
 「えええ~?」
 「監督、キョーコちゃんに妙なこと教えないで下さい」
 見かねて口を出すクオンは、振り返ったマカナンの顔を見て『またやられた』と直感した。
 彼は言ったのだ。とても嬉しそうに。
 「おー、そーか。チビズリが言ってくれるか。うん、それでもいいぞ?」
 ……前言撤回、と少年は心の中でうなだれた。
 デニス・マカナンには矢もテッポーも要らない。本人の毒だけで、人に甚大なダメージを与えられる。




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 なんかクオン負けっぱなし。がんばれ!!
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