もうだめなんて気のせいだって!(12)
「どうして、わからないんですかっ…!」
ぼろ。
キョーコの目から大粒の涙が零れ、蓮はぎょっと立ち竦んだ。
「キョー、コ」
「貴方が私を思って下さるのと同じ気持ちで、貴方が手にかけた人を大切に思ってる人だっていたかもしれないのに。貴方はそういう気持ちを踏みにじって、平気な顔をして…」
「ああ…でも、俺はちゃんと話を受ける前に下調べはするよ?生きてたら害になるような人間かどうか」
「そういう問題じゃありません!」
女調薬師は強く遮り、平手で空気を切った。黙り込んだ蓮が長く息を吐く。
「君は、俺が怖い?」
「怖いですっ」
高速で叩き返された拒絶の言葉。男はかすかに上体を揺らがせた。
「…俺は、君の方が」
「貴方を好きになって、あの男の子だって知ってもっと大好きになって、貴方にも、そう言ってもらって。毎日毎日、もうだめなんじゃないか、これ以上好きになんかなれっこないって思うのに、まだ好きになって」
「え」
「なのに貴方は、人殺しなんて請け負って、どんどん手を血に染めていく。恨みを集めて行く。“仕事”から戻った貴方の瞳の暗さを見て、私がどんなに絶望したかわかりますか!?貴方がそんな風に闇に沈んで行く、魂を蝕まれて行く姿を、いつか返り討ちに遭うんじゃないか、役人に捕まるんじゃないかってビクビクする日々を恐れちゃ、いけませんか!!?」
「キョーコ…」
蓮が呻いた。
「愛してるって聞こえる」
「そう言ってます!」
返事はまたしても高速で返った。今度は肯定の形で。
キョーコは必死の形相ではったと男を睨み上げている。その頬に、そろそろと大きな手が泳ぎ寄った。
「キョーコ…」
蓮は彼の至上の名を呟く。そっと引き寄せても、抱きしめてもキョーコは抗わなかった。
彼のシャツを握り締める小さな拳を取り、震えるその指に唇を当てる。
「ごめん」
小さく呟いた。
「心配、させてたんだね。ずっと」
「ふ」
キョーコの顔がくしゃりと歪んだ。
「れんっ、さんはっ…わたしのこと、みてるようで、みてないっですっ」
「うっ」
半泣きの声が突き刺さり、男は自分の胸を押さえる。
「いつも、心配してるのにっ、笑うんだもの。大丈夫って。そればっかり。ごはんだって、ちゃんと食べないしっ」
「あ、あ、うん…ごめん。でも、君の作ったものは食べてたよ?」
「ちゃんと食べないしっ」
「ハイ、ごめんなさい」
叱られた男は女の肩の上に頭を垂れた。
「…うん」
ぽつんと呟く。
「もうやめる」
「え?」
「殺しを請け負うのは、もうやめる」
顔を上げ、蓮ははっきりと言い切った。キョーコの方が狼狽する。
「やめるって、それはいいことだと思いますけど、でもあの、だっ大丈夫なんですか。そ、組織の制裁とか」
わうわう言うので、男がちょっと笑う。
「キョーコは想像力が逞しいな。だから調薬の腕もいいんだろうけど…
「あのね、俺はどこの組織にも属したりしてないよ。一匹狼って言うのかな?だから、仲介者に今後は請けないって断ればそれで終わり」
「本当、ですか」
キョーコは疑うように縋るように蓮に詰め寄る。
「うん」
細い体を抱え込んだ腕に力をこめ、蓮はまっすぐに瞳を合わせた。
「それで今までしたことが帳消しになるわけじゃないってことは、わかってる。だけど、もうしないから。君をこんな風に泣かせるような真似は」
涙のあとの残る頬に口付ける。
「戻って来て、くれないか…」
「蓮さん…私」
「大変だ!!!」
ずばたん!
ドアが乱暴にぶち開けられた。血相を変えて駆け込んで来たのは薬屋の青年。
「蓮も一緒か、ちょうどいい。大変なんだ…
「って…あれ?あの…」
ぴったり抱き合っている2人に気付き、彼はきょときょとと視線を泳がせた。蓮が低く呻く。
「恨みますよ、社さん…」
お約束(笑)。
この話も終わりが近付いて来ました~。
ぼろ。
キョーコの目から大粒の涙が零れ、蓮はぎょっと立ち竦んだ。
「キョー、コ」
「貴方が私を思って下さるのと同じ気持ちで、貴方が手にかけた人を大切に思ってる人だっていたかもしれないのに。貴方はそういう気持ちを踏みにじって、平気な顔をして…」
「ああ…でも、俺はちゃんと話を受ける前に下調べはするよ?生きてたら害になるような人間かどうか」
「そういう問題じゃありません!」
女調薬師は強く遮り、平手で空気を切った。黙り込んだ蓮が長く息を吐く。
「君は、俺が怖い?」
「怖いですっ」
高速で叩き返された拒絶の言葉。男はかすかに上体を揺らがせた。
「…俺は、君の方が」
「貴方を好きになって、あの男の子だって知ってもっと大好きになって、貴方にも、そう言ってもらって。毎日毎日、もうだめなんじゃないか、これ以上好きになんかなれっこないって思うのに、まだ好きになって」
「え」
「なのに貴方は、人殺しなんて請け負って、どんどん手を血に染めていく。恨みを集めて行く。“仕事”から戻った貴方の瞳の暗さを見て、私がどんなに絶望したかわかりますか!?貴方がそんな風に闇に沈んで行く、魂を蝕まれて行く姿を、いつか返り討ちに遭うんじゃないか、役人に捕まるんじゃないかってビクビクする日々を恐れちゃ、いけませんか!!?」
「キョーコ…」
蓮が呻いた。
「愛してるって聞こえる」
「そう言ってます!」
返事はまたしても高速で返った。今度は肯定の形で。
キョーコは必死の形相ではったと男を睨み上げている。その頬に、そろそろと大きな手が泳ぎ寄った。
「キョーコ…」
蓮は彼の至上の名を呟く。そっと引き寄せても、抱きしめてもキョーコは抗わなかった。
彼のシャツを握り締める小さな拳を取り、震えるその指に唇を当てる。
「ごめん」
小さく呟いた。
「心配、させてたんだね。ずっと」
「ふ」
キョーコの顔がくしゃりと歪んだ。
「れんっ、さんはっ…わたしのこと、みてるようで、みてないっですっ」
「うっ」
半泣きの声が突き刺さり、男は自分の胸を押さえる。
「いつも、心配してるのにっ、笑うんだもの。大丈夫って。そればっかり。ごはんだって、ちゃんと食べないしっ」
「あ、あ、うん…ごめん。でも、君の作ったものは食べてたよ?」
「ちゃんと食べないしっ」
「ハイ、ごめんなさい」
叱られた男は女の肩の上に頭を垂れた。
「…うん」
ぽつんと呟く。
「もうやめる」
「え?」
「殺しを請け負うのは、もうやめる」
顔を上げ、蓮ははっきりと言い切った。キョーコの方が狼狽する。
「やめるって、それはいいことだと思いますけど、でもあの、だっ大丈夫なんですか。そ、組織の制裁とか」
わうわう言うので、男がちょっと笑う。
「キョーコは想像力が逞しいな。だから調薬の腕もいいんだろうけど…
「あのね、俺はどこの組織にも属したりしてないよ。一匹狼って言うのかな?だから、仲介者に今後は請けないって断ればそれで終わり」
「本当、ですか」
キョーコは疑うように縋るように蓮に詰め寄る。
「うん」
細い体を抱え込んだ腕に力をこめ、蓮はまっすぐに瞳を合わせた。
「それで今までしたことが帳消しになるわけじゃないってことは、わかってる。だけど、もうしないから。君をこんな風に泣かせるような真似は」
涙のあとの残る頬に口付ける。
「戻って来て、くれないか…」
「蓮さん…私」
「大変だ!!!」
ずばたん!
ドアが乱暴にぶち開けられた。血相を変えて駆け込んで来たのは薬屋の青年。
「蓮も一緒か、ちょうどいい。大変なんだ…
「って…あれ?あの…」
ぴったり抱き合っている2人に気付き、彼はきょときょとと視線を泳がせた。蓮が低く呻く。
「恨みますよ、社さん…」
お約束(笑)。
この話も終わりが近付いて来ました~。
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