たいせつでたいせつで(93)

 声を跳ね上げるクオンを、キョーコはびっくり目で見上げる。
 「え、あの」
 「あ、いや…ちょっと…驚いて。大声出してごめん。
 「ええと…ねえキョーコちゃん、それ…さ、俺と、二人で日本へ、ってこと…かな」
 恐る恐る尋ねる様子に少女は少ししょげながら頷いた。
 「う、うん。あの…おとうさんとおかあさんは日本人街の行事の担当になっちゃってて、今年は里帰りとかしてられないの。でも私、ひとりで行くの、色々ちょっと、怖くて…クオンがいてくれたら心強いなって」
 「キョーコちゃん…!」
 「ご、ごめんね。甘えたこと言って。やっぱり、迷惑よね」
 「えっ!?違うよ、そんなわけない!むしろ願ったり叶ったり…いやそうじゃなくて、ええとそう、嬉しいに決まってるよ。君と一緒に旅行なんて」
 慌てて言い募る少年に、彼女はすこし頬を染める。
 「ほんとう?」
 「勿論!で、それいつごろになるのかな」
 少年の中ではもう話は決まりかけているらしい。万難を排す勢いで尋ねると、少女は壁のカレンダーをちらりと見やった。
 「8月の中旬だから…マカナン監督のCMの、ちょっとあと。ほんとは7月にお施餓鬼もあるけど、私キャンプがあるし、そっちはお盆に一緒にしてもらえるんですって」
 オセガキ。また知らない単語が出て来たが、クオンは質問しなかった。とにかく何か行事だということはわかったからそれでいいだろう、あとで父にでも聞いてみようなどと思う。いや待て、仏教の行事ならひょっとして父も知らないかも?
 とにかく細かいことはどうでもいい。少女に頼られた、と思えば彼は天にも舞い上がる気持ちになった。
 クオンは浮き足立つ心を笑顔に洩らしながらしっかりと頷く。
 「その頃ならスケジュール空いてるし、丁度いいよ」
 心の底から、
 (キョーコちゃんと遊ぼうと思って8月を空けておいて正解だった)
 と胸を撫で下ろしていた。なにしろ日本には強力なライバルがいる。そんな土地へキョーコを一人で行かせれば、きっと毎日が懊悩と憂悶に塗り潰されていたことだろう。
 「…ありがとう!」
 心配事がひとつ減ったとばかり少女が笑う。その輝くような笑顔に、なつかしい時間が宙をかすめた気がした。
 「君に初めて会ったのも、夏の京都だった」
 クオンはそっと呟く。あれは運命と呼ぶべきものだった。少なくとも自分にとっては。だから。
 (丁度いいかな)
 「うんそうね、懐かしい」
 笑って頷いたキョーコが葉書を机に戻しに行くのをいいことに、彼はわずかに表情を沈めた。
 (ショーちゃんって奴を、どうにかしないとね)



 「…はあ?なにバカ言ってる」
 だるまやの大将は眉を跳ね上げたきりむっつりと押し黙り、眉間にきりきり皺を寄せた。
 「えっとあの、おとうさん…だ、だめ?」
 様子を窺うキョーコを見下ろし、
 「いいわけねえだろう、ガキ二人で海外旅行なんざ」
 ぼそりと、しかし厳しく言い切る。用を済ませに日本へ行きたい、クオンについて行ってもらうと言った途端に不機嫌になった養父を、キョーコはそろそろと見上げた。
 「でも…一人で行くよりは」
 「危険度は変わらねえってんだよ」
 低く言う際にも、彼はクオンの顔を見ている。少年は顔が熱くなるのを覚えたが、ここで引くわけに行くものかと腹に力をこめた。
 「キョーコちゃんは俺が守ります」
 心配のタネが何言いやがる、と言葉では言われなかったが大将の眼が語っている。しかしクオンはその視線を撥ね返し、きっぱりと言い切った。
 「俺は、自分が貴方よりキョーコちゃんのことを考えてないなんて思いません」




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 最近はみんな忙しいので法事なんかもかなり融通をきかせてもらえるみたいですね。つか、うちに来て戴いてる和尚様はめっさ融通がききます。助かる。

 そしてキョーコへの感情の質が変化してちょっと強く&黒くなったクオ坊。それもアリかと私は思うのですが。
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