パクス・ツルガーナ(25)~(30)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ(25)
 「そんな!そんな不遜なことは考えておりません。不肖最上キョーコ、進路こそ若干の修正を余儀なくされたとは言え、一旦身を寄せた世界において努力邁進する決意にいささかの揺るぎもありませんっ!!」
 どどんぱ。
 黒潮を背負って叫び上げる京子の勢いに、蓮はうっかりハンドルから手を滑らせそうになった。
 「あ、ああ…うん、立派な覚悟だね…」
 他になんと言いようもなく、彼は溜め息に近く言う。
 「だけどそれなら、芸能界に入るにあたって志望してたのは別の部門だってことだよね?それは何だったのかな。俳優?芸人…はないかな。歌手とか?参考までに聞かせてくれないか」
 何とか気を取り直そうとする蓮の要請に、タレントはしっかり頷いた。
 「はいっ。私は当初…」


(26)
 「歌手を目指しておりました」
 「歌手、ね。そうなんだ」
 「はい、天職かと思いまして」
 言い切られて蓮は微妙に顔をひきつらせた。
 「天職って…」
 だけどそっちには進ませてもらえなかったのか?という問いを、彼はどうにか飲み込んだ。
 一体なぜだろう、もしやひどい音痴なのだろうか?それは様々なスキルを要求されることのあるタレントにとってもあまり喜ばしくはない。いや、そこを逆にネタにするのはありか…
 瞬時に考えを巡らせるマネージャーは、ふと視線を感じて器用に右の瞳だけを動かした。
 「いま、コイツ音痴なのか!?とか疑ってませんでした?」
 尋ねられて視線を元に戻す。
 「いや、別にそんなこと、思ってないよ?」
 「じゃあどうして目を逸らすんですかっ」
 「それはほら、運転中だから。君の方ばかり向いてるわけには行かないだろう」
 しれっと言うが、まだ自分の横顔に京子の視線が張り付いているのを痛いほど感じる。どうも、おいそれとは納得してくれそうにない。蓮はたまりかねて苦笑した。


(27)
 「ハイ正直に言います。ちょっとね、思いました」
 「やっぱり」
 片手を挙げると京子がしたり顔で頷く。
 「皆さんそうでしたもの。初めは歌手志望だったって言うと、じゃあどうしてそっちに進めなかったんだ、さては激烈音痴か、って」
 「激烈音痴…
 「いや、それは置くとして。ってことは、天職とまで思うほど歌が好きな君が、歌手部門に入らなかった理由があるんだね?それ、聞いてもいいかな」
 「え、別に、そこまで歌が好きというわけではないのですが」
 「…ちょっと待て…」
 蓮の声が地を這うようになった。ざりざりと擦過音を伴う気すらする低音に、タレントから戸惑いの気配が立つ。
 「あの、敦賀さん?」
 呼びかけられて彼は、冷えた、なのに煮えた声音を返した。
 「君は一体、何がしたいのかな。タレントになる気はなかった、歌手になりたかった、だけど歌が好きなわけじゃない。この世界には何となく入っただけだとでも言うつもりか!?」
 

(28)
 自分の言葉が暴走しかけていることはわかっていた。相手が9つも年下の少女であることも。
 なのに、先鋭化する気持ちを止められない。
 蓮は常の自制を失う自分をどうにもできずに急いた声音を繋いだ。
 「それともあれか、芸能人になっておけば金だけはある馬鹿な男を釣り易いとでも思ったのか。そんな根性で…」
 半ばは八つ当たりと呼ばれるべきだったかもしれない。3年の空しい努力を経て、今度こそと臨んだ担当タレントに自分のように強い志向がないのかと思えば絶望しそうになる、それは事実だ。
 しかし、それにしても…
 腹の底では、彼もまた狼狽していたのだと思う。それへ、
 「あなたに根性なんて云々されたくありません!」
 京子が悲鳴のように叫び返す。
 「なんですか、理解のための努力は惜しまないって言った舌の根も乾かないうちに!!」
 「え…」


(29)
 「話もろくに聞かないうちから一方的に責めるようなことが、理解するってことなんですか!?」
 きつい調子で責めつけられ、蓮は酢を飲んだような顔をした。一気に頭が冷える。どうも自分は、あとのない現状にかなり囚われているらしいと嘆息が洩れた。
 「ああ…悪かった。
 「謝るから、きちんと君の話を聞かせてくれ…」
 何とか言葉を唇の外に押し出す彼に、京子も怒気を収めて呼吸を整える。さすがおかん、これでは自分の方が年下のようだと苦笑が浮かんだ。
 「お恥ずかしい話ですが」
 と前置きをして、タレントが咳払いする。 
 「私はですね、はっきり言ってあまりいい育ちをしておりません」
 「…え。でも、そんな言葉遣いも礼儀も正しいのに」
 「はあ、ありがとうございます。でもそれは、生きるために身につけざるを得なかったと申しますか…」
 そしてぽつぽつ語り出すキョーコの話に、彼はほとんど呆れそうになった。



(30)
 「相互理解のために必要かとも思われるので申しますが、聞き苦しいとお思いでしたらいつでも止めて下さいね」
 などと、タレントは低い声で前置きを入れる。それから、やたらきっぱり言い切った。
 「私の父は、はっきり言ってゴミ虫です」
 「それはまた手厳しい…はあ!!?」
 一瞬、車体が左右に振れる。蓮は狂った手元を戻し、半顔を覆った手の中にふかい息を吐いた。
 「続けてよろしいでしょうか?」
 「ああ…」
 確認されて力なく頷く。
 「その悪辣な性質を逐一上げていてはきりがありませんので割愛しますが、結婚後も複数の女性と関係を持ち続け、あまつさえそれを母の前で悪いことをしているつもりはないなどと言い切る非人道ぶりだったそうです。
 「それでも初めのうち仕事の収入は家に入れていたのですが、やがてずっと若い女性に入れあげるとその人と遊ぶやら貢ぐやら次第に家にも寄り付かなくなり、生活は母が支える始末。私は物心つくころには母を手伝って家事をし、長じてはアルバイトにも精を出しておりました」
 「えーと…」
 蓮はどう答えたものか見当をつけかね、ただ半端に呻いた。



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 拍手お礼SS再開しました。(34)が1P目になっていますが、2P目に(35)も入っています。
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