パクス・ツルガーナ(37)~(42)

 拍手お礼にて連載しているパラレル話です。
 敏腕なのに担当タレントにモテ過ぎたり自信を失わせたりするのが問題というマネージャー敦賀蓮の手腕によって、ちょっと変わった性格で扱いづらいとされるタレント京子がのし上がっていく(?)物語。最後は…?


パクス・ツルガーナ

(37)
 しっかり聞きとめたタレントは、むしろ嬉しげな声を上げた。
 「敦賀さんも、なんですか!?」
 「……どうやら、そうみたいだ…」
 不覚だった、と蓮は項垂れる。辞令など何度ももらいすぎて、いちいち確かめることもしなくなっていた。まさか、8枚目のそれに爆弾が仕掛けられているとは。
 「じゃあ敦賀さんも、ツナギ着るんでしょうか」
 「え」
 聞きとがめる蓮に、ぱっと前を見たキョーコが慌てた声を出した。
 「あ、信号変わりましたよ!」


(38)
 やむなく車を交差点内に進ませ、マネージャーはそろりと尋ねる。
 「ツナギ、というのは?」
 「ラブミー部のユニフォームです」
 「ああ…そう言えば、そんなものがあるとか聞いた気がする」
 あまり関心もなかったから聞き流していたが。
 「とっても可愛いデザインなんですよ?」
 明るい口調でキョーコは言う。しかし蓮は、その声の中に何か無機質なものを感じて思わず傍らを顧た。
 「…!?」
 担当タレントは、たいへん穏やかな表情を浮かべている。一点の曇りもない、それは、
 営業スマイル。
 「…可愛い、というのも、俺には似合わないような…」
 蓮は測るように言ってみた。
 

(39)
 「あら!」
 どっかのおばちゃんのような声が上がった。
 「あらあらあら、そんなこと仰らないで。試すだけは試すべきですよ~」
 「…そんな周旋おばさんみたいな…」
 おかんならまだしも、これは少々いただけない。そんな思いは、貼りつけて固めたような京子の笑顔を見て余計に強まった。
 「そんなに勧めるには、何か動機がありそうだね…?」
 蓮は声を低め、笑みを含ませて尋ねてみた。
 「え」
 底流に潜む皮肉を敏く感じ取り、タレントは笑顔にぴしりとひびを入れる。


(40)
 「そんな、動機なんて…どうしてそんな風に疑われるんです?」
 京子は相変わらずにこにこと言葉を継ぐのだが、それがどこか上滑りになったと感じるのは気のせいなのだろうか?
 「どうして、か。
 「言わせてもらえば、疑念を抱く理由としては君のさっきまでとの態度の違いが一番大きいんだけどね」
 鼻の先で言う蓮に、タレントは『ちっ』とばかりに指を鳴らした。
 「何かな?その反応は」
 「イエベツニ」
 一瞬目を向ければ、京子は白々しくあさってを見遣る。蓮は小さく息をついた。
 「大体、どんなユニフォームだか知らないけど…タレントや俳優ならまだしも、マネージャーがツナギで歩き回るわけには行かないよ。スタッフと区別がつかなくて軽んじられたりすれば、その信用度は担当タレントたちに跳ね返る。それはどう考えたって、うまくないだろう?」
 「はあ…」
 「タレントなら、たとえジャージだって金太郎の腹掛けだって、それをカラーと言い張ることはできる。だけど俺たちはね。個性よりも、ビジネスとしての外観を優先させざるを得ないんだ」
 「はあ…そういうものですか」
 故意にだが淡々と語れば、京子はおとなしく聞いている。
 折りよく、目的地は目の前だ。この話もここまでになるに違いない。どうやら怪しげな『ユニフォーム』から逃れられそうか、と見て、蓮はハンドルを切りながら心中で安堵した。
 

(41)
 「うわあ…」
 京子は大きな瞳をキラキラさせて美容室の中を見回している。
 初めて出会った年頃の娘らしい反応に、蓮は心の底から安心する思いだった。
 それにしても誰もいないのはどういうわけかと彼も店内を見渡せば、折りよく奥のドアがすいと開いたところだった。
 「あら蓮ちゃん、いらっしゃ~い」
 鈴を転がすような声をこぼし、小柄な人物が出て来る。
 その姿を認め、蓮はとっておきの微笑を浮かべた。
 「いきなりすいません、ミス・ジェリー・ウッズ」


(42)
 「そちらは新しく担当する子?」
 京子を見て、スーパー童顔の店主はにこりと小首を傾げた。
 「ええ。タレント部の京子です。
 「京子、挨拶を。こちらはミス・ジェリー・ウッズ。この美容室のオーナー店長で、魔女と呼ばれるほどの凄腕ヘアメイクアーティストなんだ」
 「まっ魔女!
 「あの、よろしくお願いしますっ。京子です!」
 まるい頬がたちまち上気するさまを見て、マネージャーは意外なところに担当タレントのツボを発見したと思った。成長環境からして徹底したリアリストでもあろうかと思えば、実はメルヘンテイストに弱いようだ。
 「あら、うふふ。こちらこそ」
 持ち上げられた美容師が悪びれもせずに笑う。
 「ところでミス・ウッズ、今日はこの娘を貴女の腕にお任せしたいんですが。なにしろ栄えある8人目ですから、可能な手はすべて尽くしたいんですよ」
 蓮が苦笑とともに要請すれば、見た目はともかく年の功かジェリー・ウッズはさらりと笑って流した。
 「末広がりでおめでたいわね。今度は期待できそうじゃない」
 マネージャーが、おやと眉を上げた。
 「そう、思いますか?」


 
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