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たいせつでたいせつで(13)

 「…え」
 電話線の向こうから聞こえて来る声に、クオンは思わず受話器を強く耳に押し付け直した。学校から戻ったところを計ったようにかかって来た電話を居間に駆け込んで受ければ、自分のマネジメントを頼んでいるエージェント。先日受けたオーディションの結果報告に違いないと固唾を呑む彼に、代理人は何と言ったか。
 「おめでとう、って言ったんだよ」
 苦笑を含んだ声が繰り返す。
 「…じゃあ…」
 受かったのか。あのオーディションに、自分が。整った面上にじわじわと喜びの色が差す。そんな彼に、代理人は大きく両手を拡げるような口調で告げた。
 「そう。ハッピーバースデイ」
 「……」
 クオンは無言になった。確かに今日は自分の誕生日だが、今聞きたいのはそんな祝福ではない。
 思っていると、
 「冗談だよ。いや誕生祝いは本気だが。…重ねておめでとう、ウシュク役は君のものだクオン・ヒズリ」




 「…!」
 電話を切って、クオンは大きく息を吸い込んだ。握った拳を天に突き上げる。
 (やっ…た!) 
 正直言って、半ばは諦めていた。以前、容赦なく彼の首を切ってくれた監督だったから。それでも駄目もとでオーディションに挑戦したのは、それだけこの映画に出たかったためだ。
 何となれば。
 キョーコが好きそうな話だったから。
 タイトルを『エングリン(魔詩)』と言う。有名なアーサー王伝説直前と言う時代設定で、エリン島(アイルランド)を舞台に剣に魔法に妖精にといった幻想世界が展開されるコスチューム劇だ。
 彼が獲得したのは英雄を求める旅をする主人公の吟遊詩人に従う見習い少年の役。結構なアクションが要求されると言う話で、選考会もかなりアクティブな雰囲気ではあった。
 (…うん)
 頑張ろう。と決意も新たに、彼はリビングを飛び出した。キョーコに報告したい。あわよくば、自分の喜びを感じ取ったキョーコが笑ってくれはしまいか。折りよく自分の誕生日、そうなったらどんなプレゼントを貰うよりも嬉しい…
 いや待て。それより先に、今日は学校が長引いて家政婦さんに任せたまま夕方になってしまったことを謝らなくてはいけない。
 加速装置でもついているかのように階段を3段飛ばしに駆け上がり、キョーコの部屋のドアをノックした。返事はないのが常だから、そのまま開ける。
 「キョーコちゃん…」
 勢い込んで呼びかけると、少女は窓際で椅子にかけて絵本を開いていた。誕生日に彼がプレゼントしたものだ。
 まっすぐな黒髪をブラシで梳いていた家政婦のミセス・グレンが顔を上げてクオンを見る。
 「あら、坊ちゃん。お帰りなさい」
 「ただいま、ミセス・グレン…坊ちゃんはやめて下さいって言ってるでしょう」
 「あら失礼、ついクセになってまして。なにしろ坊ちゃんが歩く前からこちらに勤めさせて戴いてますものねえ」
 「ミセス・グレン…」
 「はいはい」
 そろそろ中年も過ぎようという年頃の家政婦は肩をすくめて笑い、梳き終わったキョーコの髪を撫でながらブラシを鏡台に戻した。
 「キョーコは今日もいい子でしたよ。相変わらず、喋りませんけど…」
 「でも、少しずつ反応を見せるようにはなってる」
 「ええ、もちろん」
 意地を張るように言い返す少年に彼女はやわらかい微笑を返し、部屋の中に乱れがないか軽くチェックしてからドアに向かった。
 「では、私はこれで失礼しますよ。早めに戻って食事に行くとご両親が仰っていたので、今日は夕食の支度はしてありません。でも、もし家で食べることになりましたら、冷蔵庫の2段目にグラタンやオムレツが入ってますから、チンしてどうぞ」
 「わかりました、ありがとう」
 クオンは苦笑半分ながら心から礼を言った。
 この家に勤めて長いミセス・グレンはミスタ&ミセス・ヒズリの多忙さをよく知っている。何度も約束を裏切られては何も食べずに部屋に篭っていた子供の姿も見て来たため、キョーコが来てからクオンが彼女に食べさせるついでに自分もきちんと食事を摂っていることを喜んでいた。
 「すっかり落ち着きましたねえ、坊ちゃん。なんだか男の顔になって来たみたいですよ」
 嬉しそうに、からかうように言って家政婦はドアを閉める。
 「男の顔って…」
 クオンはぼそぼそ呟く。嬉しいような、照れ臭いような。
 じきに気を取り直し、彼はキョーコの座る椅子に近付くと傍らに膝をついた。
 「ただいま、キョーコちゃん。遅くなってごめんね。でも今日は、ふたつおめでたいことがあるんだ。
 「一つは、俺の誕生日だってこと。だから、今日は外へ食事に行くって父さんたちが張り切ってたよ。…ほんとに言ってた通り早く帰れるのかわからないけど」
 小さく苦笑し、少女の綺麗に整えられた髪を撫でる。
 「もう一つはね、オーディションに合格したこと。俺、映画に出るんだ。出来上がって試写会があったら、きっと招待するね。
 「…気が早いかな。でもキョーコちゃんが気に入りそうな話だから…妖精とか出て来て」
 語りかけながら大きな目を覗き込むと、キョーコがふわり微笑んだ。
 「やっぱり、妖精とか好きだよね」
 思わずクオンも微笑を浮かべた時、階下から父の呼び声がした。
 「クオン!クオン、いるか!?」
 「あれ、へえ、ほんとに早く帰って来た。
 「いるよ、父さん!!二階!」
 小さく呟いてから叫び返すと、どたどたと階段を昇る足音は父にしては珍しい粗暴さだ。
 首を傾げるクオンの耳に、クーの弾んだ声が届いた。
 「ニュースがあるぞ…」

 



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 加速装置古スギ(笑)。
 クオンの誕生日、『2月19日』だったら“蓮”の時にキョーコに間違われてもむしろ嬉しいのかも~とか思ってしまいました。いやこの話、蓮は出てきませんが。
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