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ワルプルギス(3・完結)

 「あの、大変光栄に思います…っ」
 キョーコが訥々と言い、蓮は絶望するように目を瞑った。
 「特にその、ジュリエナさんのお近くで毎日お姿を拝見できるというのはとてつもなく魅力的な、夢のようなお話ですし」
 少女の視線は相変わらず米国俳優夫婦に…と思えば、実のところ米国女優に惹きつけられているらしい。ほわほわ紡がれる言葉に、深く頷く声が返される。
 「そうだろうそうだろう。ジュリの美しさと来てはまったく、見ているだけで幸福になれるというものだからな!」
 「まあ、いやだわあなたったら」
 「じゃあ最上君」
 つつき合う年長バカップルから話を奪い、ローリィ宝田が身を乗り出した。
 「君は、この話を受けるかね?」
 ハナクソをほじって弾き飛ばすような気軽な声調子ではあるが、実の重みはけしてそんなものではないだろう。ここでひとたびキョーコが頷けば、あれよあれよと言う間に事は進められ完成され…
 敦賀蓮の視界から最上キョーコは奪い去られてしまうに違いない。
 もしかしたら、永遠に?
 「最が…」
 俳優の唇から意志を介さずに声が転がり出た。しかしそれは、ほぼ同時に響いた別の声に中断させられる。
 「いいえ」
 きっぱりと、いささかの揺れもなく言い切るメゾ・ゾプラノ。
 蓮が思わず少女と自分の両親とを見比べると、片や決然と背筋を伸ばし瞳を据え、片やみるみる悄然と萎れて行く。
 「二人でお買い物に行ったりお料理したり、楽しみにしてたのに…」
 ぽそりと呟く母の言葉の中には聞き捨てならない単語が混じっていたが、彼は何とか衝動を抑え込んで見せた。
 「そうなのか!?なぜだキョーコ…」
 呻くクーに、キョーコは申し訳ないと言う風に小さく首をすくめる。しかし返答を翻すことはなく、眉尻を下げて微笑んだ。
 「すみません、折角のお誘いを。でも…」
 ちょっと思案するように小首を傾げる。
 「私はまだ俳優養成所も終えていませんし、基礎だってちゃんとできてなんかいないんです。こんな状態で留学しても、身につけるべきものを身につけるまでに倍の時間がかかるだけだとしか思えません」
 「キョーコ…」
 「それに、アメリカには」
 少女の大きな瞳が、ちらと横へ跳ねた。一瞬だけ絡んで離れた視線を追うように、蓮はついと右へ重心を移す。ほんのわずか、2cm弱だけ近くなった肩にキョーコは気付いているだろうかと自問する彼の耳に、
 「敦賀さんがいらっしゃいませんから」
 自分の名前が届いた。
 「えっ…」
 若い俳優は両親と雇用主が揃って喜色を過らせるのを視認したが、この際はそれどころではなかった。
 「…俺?」
 聞き違えたろうか。どういう意味だろうか。いや彼女に期待は禁物…短い問い返しには、いく色もの感情が差し挟まっている。
 すると最上キョーコが、ぱっと笑顔を浮かべる。
 「はいっ」
 つられて緩む蓮の唇が言葉を発するより早く、彼女はしかし。
 「やはり尊敬し目標とする方のお姿が間近にあると、励みになりますので!!」
 いつもの敦賀ブレイクを今日も見事に決めた。
 「……」
 宝田邸の豪壮なる居室を、白っぽい沈黙が覆う。おとなたちの誰のものか、重い溜め息が聞こえた。しかしキョーコは発言者である自分でなく蓮に集められている視線の意味を知るどころか疑いもしない様子で、にこ照れと肩を縮めている。
 同情と非難とを同量含んだ3対の目を強く意識する俳優に、やがて一番に立ち直ったコスプレ社長が重々しく声をかけた。
 「…蓮」
 「え、はい」
 「そろそろ時間も遅い、最上君はそろそろ帰らにゃならんだろう。送ってってやれ」
 「はあ」
 その意図を疑い、蓮の返事はやや曖昧になった。するとさっそく天然乙女の遠慮が発動する。
 「そ、そんな!お忙しい敦賀さんを余計に疲れさせるわけには行きません。私は一人で帰りますので!」
 わたわたと両手を振るのへ、彼はこめかみに浮きそうになる血管を意志の力で押さえて微笑みかけた。
 「遠慮しない。こんな時間に女の子を一人で帰らせるわけには行かないよ」
 やさしく言えば、彼の父が気を取り直す様子を見せる。
 「おお、さすがに敦賀君はいい男だな。キョーコ、我々もお前を一人で帰らせるのは心配だ。遠慮せずに送ってもらいなさい」
 「え、あ、はあ…あの、じゃあ…よろしくお願いします、敦賀さん」
 「了解」
 師とも父とも仰ぐハリウッドスターに勧められるやあっさり納得する少女の姿が業腹で、俳優の声はまたも愛想を失う。途端にぴきと固くなるキョーコの肩の線に気付き、溜め息の中に感情を逃がして立ち上がった。
 「行こうか」
 「は、はい」
 二人揃って大人たちに辞去の挨拶をすると、見送りの執事が開いたドアへと向かう。その背中に届く、ひそやかな囁き。
 「ボス、全然駄目じゃないか。ひとつもうまく行かないぞ」
 「まあ焦るな、もう少し策を練ってみるとしようじゃねえか」
 「そうねえ、このままじゃ帰れないわ…」
 いやもう、帰って下さい、今すぐ。
 心から願いながら、彼は策謀うずまくブロッケンの館をあとにした。


-了-




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 きらら様リクありがとうございました~。こんなもんになりましたがお納めを☆


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