たいせつでたいせつで(112)

 「なっ…」
 クオンは素晴らしい快足を遺憾なく発揮してマカナンのもとへすっ飛んで行く。
 「何を言い出すんですか藪から棒に!!そんなのコンテになかったじゃありませんか!」
 「そりゃそうだろ、今思いついたんだもんよ」
 まさに馬耳東風、ディレクターはほりほり耳をほじる。
 「思いつきでものを…」
 少年は抗議しかけて、そのまま言葉を止めた。デニス・マカナンは、その思いつきによって評価を得ている人間だ。彼からそれを取れば、あとにはひねくれといい加減くらいしか残らないのではないだろうか。
 「いーだろ別に、お前にゃ役得ってやつじゃん」
 「じゃん、じゃなくて…」
 うりうり脇腹をつつかれてクオンは絶句する。
 「どこが、役得なんですか…こんな、人前で」
 「なんだヨ。そもそも俺が初めて嬢ちゃんに会った日、お前何したか覚えてねえってのか?」
 「う」
 少年の小さな呻き声。遅れてやって来たキョーコがちょうどこの台詞を聞き、顔を真っ赤に染め上げた。
 まだキョーコの自我が覚醒しきっていなかった時。『エングリン』の撮影現場で。彼は少女に口付け、それがきっかけで彼女は目覚めたのだ。
 「あーあー。王子様はお気の毒に、後退しちまってやんの」
 マカナンがケラケラ笑う。
 クオンはぐっと拳を握り、自分よりも背の低い中年男を睨みつけた。
 「お?なんだよ。言っとくけど、睨んでも俺ゃ怖かねえぞ?キョーコチャンの前で目上の人間殴るような真似するクオン君じゃねえもんなー」
 まだ笑いながら、映画監督は的確に少年の手を封じた。軋むほど奥歯を噛み締めるクオンの肩をぽんと叩き、彼は言い切る。
 「ま、そういうわけだから。ヤレ」
 「ちょ、ちょっと待って下さい!」
 「待つかバーカ」
 舌を出したマカナンは、再び椅子に尻を預けたと思ったら手にしたコンテの裏に猛然と書き込みを始めた。こうなると何を言っても無駄だとは知っていたが、クオンはなおも食い下がる。
 「ですからっ…そりゃ、俺はいいですけど!キョーコちゃんは…タイショーだって怒りますよ!?仲いいんでしょう!?」
 「おう、マブダチだ」
 「だったら、そんな人が嫌がるようなこと」
 「だからわかってくれるって」
 恐るべき楽観主義。顔を上げようとさえしないディレクターのややうすいつむじを見下ろし、クオンは溜息をついた。
 ふと気づくと、マカナンが目だけ上げて彼を見ている。ニヤニヤと。
 「ってかさあ、お前、なんか勘違いしてねえ?」
 いつものからかい口調で言うと、彼は今書いたばかりの新しいコンテを少年に突きつけた。
 「ホレ」
 





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 きっと後ろでは、ヒズリペアレンツがわくわくしてる。
 

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