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present

 「………」
 煌々と照る蛍光灯の真下、敦賀氏はぼんやりとソファに腰掛けている。こころもち前に身を乗り出し、腕を組み、何か紙片を持った手を顎に当て、視線を斜めに落として。
 ひらと紙片を振り動かした。眉根を寄せた懊悩の表情すら艶冶で、鑑賞者のいないことが惜しまれる。
 そもそも、氏の自宅たる高級マンションの、一人分には些か無駄なと庶民なら慨嘆すらしそうなスペースも、普段なら彼の身に具えるゴオヂャスな光輝に満たされてなるほど必要な空間ではあるかと見えるものなのだが…
 今は。
 彼の視線の先には。
 どうもこう、何と言うか、異質なモノが『とえーん』と8%の乱れ集中線を引き絞っている。お蔭で室内の雰囲気は常になく家庭的(気遣い的表現)だった。
 「…」
 日本国内において最強人気を誇る俳優が、もぞと身動きした。
 顎の上の手がゆっくりと額にのぼる。
 「…っ…あの娘は………」
 綺麗に磨かれたテーブルの上に、なやましく吐き零される溜め息。それに揺らされてかさと鳴るのは、くるくると端を巻いたリボンと、その上に拡げられたラッピング用紙だ。
 そして、更にその中央には。
 いわゆる枕と呼ばれるモノ。が鎮座している。
 いや、それはこの際いいとする。
 するがしかし、問題はその形状である。
 どこからどう見ても、人の下肢の形をしているのだ。文句なく“膝枕”と呼べるような。
 敦賀蓮は掌中にした紙片…メッセージカードを開き、なんどめかにまた読み下した。
 細い、几帳面な筆跡で
 『大先輩の健康を支える安眠のため、枕を贈ります。以前ちょうどいいとおっしゃって戴いたので、私の膝の形状となっております。』
 …っふ~………
 これまた何度目かになる長い長い溜め息。
 「だから、どうしてそう…」
 俺を煽るのかな…?
 ものすごく精巧な人形を作る彼女のことだ。『私の膝の形状』も正確この上ないのだろう。恥ずかしいとは言っていたけど、そんなものを俺に渡していいのか?
 嬉しいやら、むしろ男扱いされてない気がして微妙にヘコむやら、うっかり妙な欲を覚えるやら。点目で頬を染めるという珍しい敦賀氏の姿を、果たして愛しい少女は予想し得たか。
 「絶対してないな…」
 敦賀氏は思った。
 まったく、ほんとに。


 どうしてくれよう、あの娘だけは。




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BLACK WOLF & CAT(4)

 「っと、こんなものかな」
 リビングスペースのテーブルを、キョーコはにっこり見下ろした。
 炊飯器はあと2分、すまし汁はほこほこ湯気を立てブリ大根はてりてり光り、
 いくつもの小鉢に包囲されてテーブルの中央に鎮座するのはいわゆるタコ焼き器。温度調節のし易い電器タイプのものだ。なお、テーブルは慎重に感熱警報機の下から離されている。
 水色のボウルにはとろりとなめらかなタコ焼きのタネがまだ1/3ほど残っており、小鉢の中には様々な具材がとりどりの色彩を見せていた。牛肉の大和煮、鶏そぼろ、梅ペーストを塗った鰯、みそ焼きの鯖、下味をつけた剥きエビにゆがいたアスパラガスにタケノコのブシ煮に青紫蘇を巻いたチーズetc、いずれもごく小さな塊に切られている。今夜はタコ焼きの前身、ラジオ焼きにするらしい。
 彼女はちらと時計を確認する。今日は早めに撮影が上がりになったので、ホテルに戻っても暫くは兄妹のままだった。
 しかしそれももう終わったようだと安堵して、TVの音がしているベッドスペースに近付く。
 「敦賀さん、お待たせしました」
 声をかけるが、蓮が反応しない。まだカインのままなのだろうかと思って横に回ると、無造作に投げたコートを尻に敷いてベッドに座っている男は、
 TV画面に見入りながら、
 「そうか、この番組だったんだ」
 微笑んでいた。やわらかく、やさしく。
 「…!?」
 時々は見るもののやはり心臓に悪いその光輝に射られ、キョーコは両手で目を庇う。
 一体何の番組を…と思った時、小さめに絞られた音の中に聞き慣れた声を聞きつけた。
 『はい、じゃ次のコーナー!』
 『コケー!』
 って。
 ってそれ。
 つつつ敦賀さん。なんでまた、そんなものを見てらっしゃるんですか。いつもニュースくらいしか見ないのに。
 思わず狼狽しまくる。
 実は蓮はザッピングの途中で見覚えのあるフォルムを発見してチャンネルを止めたわけだが、それがつまり巨大な白いニワトリ。となれば番組は、“やっぱきまぐれロック”、コレである。
 それにしても、あんな優しい瞳で…坊を見てるなんて。
 そっか。敦賀さん、坊のこと気に入ってくれてるんだ。キョーコが嬉し恥ずかし照れていると、
 「あ」
 蓮が彼女に気付いた。
 「ああごめん、夕飯?いま行くよ」
 「あ、ハイ…」
 「リビングの方のTVつけてもいいかな。今の番組、見たいんだけど」
 リモコンを取り上げて言うので、キョーコは『う』と詰まったが拒否もできずにひきつり笑う。
 「はあ、あの、ご随意に…」
 「ありがとう」
 「いえ別に、お礼を言われるようなことじゃありませんし」
 諦めてリビングスペースへと踵を返した。不意に、肩が温かくなった。蓮が急かすように彼女の肩を抱いて歩き出す。
 (うあ、つ、敦賀さんっ…カインの動作が癖になってらっしゃいませんかあっ)
 時間制で兄妹として振舞うようになってから、普段の蓮までスキンシップに抵抗がなくなって来ている気がする。キョーコが背すじをじみじみ這い上る正体の知れない感情に心の中でモダエていると、長身の俳優がすこし身を屈めて何か言った。
 「…へ?鮎桶?鮎食べたいんですか?敦賀さん」
 聞き返せばぷっと噴き出す。
 「Are you O.K.?って言ったんだよ。真っ赤な顔してるから」
 「あ、ははは、はい!問題ありません、ええ何も」
 「そう?ならいいけど。
 「でも、鮎、いいね。季節になったら一緒に食べに行こうか」
 「はあ…」
 食べ物の話なんて珍しい。生返事を返すキョーコに、蓮がちょっと笑った。それが苦笑に近かったのは、重点が『食べに』ではなく『一緒に』だったということに気付いて貰えなかったせいだが、キョーコはもちろんそれにも気付かない。とりあえず半分は言質を取ったと満足し、彼はテーブルの上に目を移した。
 「へえ、今日はタコ焼き?珍しいおかずだね」
 関東人発言、と言うべきか。キョーコは軽く首を振る。
 「あ、いえ。これはラジオ焼きと言って、中身はタコに限らないんです。もともとタコ焼きはこれだったんですけど、たまたまタコを使ったのが受けてタコ焼きが定着したんだそうですよ」
 「ふうん…ほんとだ、色々ある。何だか楽しいね」
 「えへへ」
 思ったよりも好感触を得て、キョーコは嬉しそうに自分の席に着く。蓮は対面に座り、早速TVのリモコンに手を伸ばした。TVがヴ、と低い音を立て、先に音声が、次いで映像が現れ出す。
 『コッケー!!』
 『うわ、何や坊。照れんでもええやんかこの~』
 ブリッジロックのリーダー・光にいじられている大きなニワトリが映った。水のグラスを渡しながら見ると、蓮の唇にはまた慈愛の微笑が刷かれている。
 「あ…の、どなたか、お知り合いが…?」
 自分について蓮がどう言うのか知りたいという誘惑に負け、キョーコはラジオ焼きをピックで皿に取り分けながらそろりと尋ねてみた。
 「え?あ、ありがとう」」
 「いえ、その。敦賀さんがバラエティ見るの、珍しいと思って」
 「そうかな、たまには見るけど。
 「いや、でも、この番組はそうだね。今まで何の番組に出てるとまで知らなかったんだけど、鶏の彼とちょっとした縁があって」
 「そうなんですか」
 「うん。彼には、お世話になったな」
 箸を取り上げ、俳優はちょっと照れたように笑う。そんな笑い方が珍しくて、キョーコは思わず見入ってしまった。
 「うん、美味い。魚だね。梅の味がスッキリする」
 「…」
 「最上さん?」
 「え!?あ、いえっ!
 「敦賀さんみたいなスーパーな方がお世話にって、不思議な気がして。えと、それ、鰯です」
 「スーパーねえ。
 「でも、ほんとなんだよ。彼は不思議な人…ニワトリで、最初の出会いが出会いだったせいか素直に話せるんだ。色々相談に乗ってもらったよ。彼も頑張ってるみたいで、嬉しいな…」
 蓮の口調に紛れもない感謝のひびきを聞き取り、ニワトリの中身は大いに照れた。しかし面に出すわけにも行かず歯を食いしばる。
 蓮が首を傾げた。
 「…その形相、何かな…最上さん。さっきから様子が変だよ、体調でも悪い?」
 「いえっ!?そのようなことは!ただその、ちょっと…
 「羨ましい気もすると言うか」
 「え」
 「“坊”は、敦賀さんに自然に接してもらえるんだなって思ったら…」
 言いかけて少女は言葉を切る。これじゃまるで嫉妬しているようだ。しかも自分に。
 目を瞠り、まじまじと自分を見つめている男の視線に身が縮む思いがする。キョーコは俯き、喉元に手を当てた。
 『アタシだって、兄さんにそんなに信頼されたいもの』
 セツカの声で言ってみる。これでごまかされてくれないだろうか。
 祈るように思っていると、ふいと笑う気配がして顔を上げる。
 やはりいつもより低いトーンの声が、ぽそりと耳に落ちて来た。
 『…俺に一番近いのは、お前だ』
 「…!」
 キョーコには、喜びはにかんでいるのがセツカなのか最上キョーコなのかわからない。ただ…
 蓮の口から出る親しみが、いつも自分に向けられていることが嬉しかった。
 それが、いつも自分の仮の姿に向けられていることが…
       寂しかった。




 
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BLACK WOLF & CAT(3)

 静かだった。
 音量を絞ったTVから聞こえる人声とエアコンの低い作動音。それが世界の音のすべてであるかのように思える。
 そして嗅ぎ慣れた兄の匂い。世の誰がどう思い何と言おうと、自分にはやさしい、なつかしい匂いだ。ただ、最近ストレスのせいなのかタバコの量が増えていて、それが服にもしみついている。少し減らすように言わないと…
 ゆら、と小さな顎が揺れた。
 セツカはうとうと眠り込みそうになって、すいゅ~…と頭上に抜けていく思考を追って目を開いた。
 そして凍った。
 セツカでなく、最上キョーコが。
 「…ひ!?」
 腹筋だけで勢いよく身を起こす。はずが、額の上の大きな手に引き止められた。
 「眠いなら、寝てていいよ…?」
 キョーコの頭を胡坐をかいた膝に乗せてふいと笑う男も、カイン・ヒールでなく敦賀蓮に戻っている。
 「ぜぜぜ全力で辞退申し上げますううう!!!」
 叫んで無理矢理跳ね起きる少女は、はっと気付いてベッドサイドを振り返った。緑のデジタル表示は19:06。
 「セーフだね」
 「はあ…」
 蓮にくすくす笑われ、キョーコは複雑そうに頷く。
 二人の間の取り決めで、朝起きてから夜の19時またはカインの仕事が終わるまでの時間を兄妹として振舞うということにしていた。さすがに24時間ずっと兄妹でいるのは、年頃の娘には何かと辛いこともあるかもしれないという蓮の配慮だった。
 まあ、配慮とはうまい言葉である。
 就寝時まで兄妹設定のままにしてブラコンのセツカにうっかり同衾でもされようものなら、困るのは蓮の方だと言うのに。理性への試練など、室内に満ちる彼女の肌の香りだけでおつりが来る。
 「でも、最上さん」
 俳優が不意に表情を変えた。突っ立ったままの少女を、真剣な眼差しで見つめる。
 「は、はい…?」
 この敦賀さんは苦手だわ、と思いながらキョーコはおずおずと視線を返した。それへ蓮は、珍しく言いにくそうに口を開く。
 「疲れた時は、ちゃんと言ってね?体調が悪い時なんかも。映画の撮影が終わるまで数ヶ月はかかるんだから、その…
 「男にはわからない事情とかも、あるだろうし」
 「!」
 キョーコは真っ赤になった。
 「は、はあ…ええと、その…お気遣い、ありがとうございます。でも…」
 ひとつ息を吸う。声のトーンを落として、
 「それじゃ逆よ。アタシが、兄さんの体調を管理する立場なんだからねっ」
 セツカが言った。彼女を見上げる青年の片頬が、小さく小さく緩む…
 「あ、あ。あの。じゃ、わ、私お夕飯の支度しますね!」
 何かわたわたと奇怪な動きをし、キョーコはキチネットへと逃げ出した。今の微笑が、蓮だったのかカインだったのかわからない。でも。
 でも何か…心が騒ぐ。
 (だって、あんな小さな表情から、ほんとうにいとおしいって感情が伝わって来たんだもの。
 (…って事は、やっぱりカインだったのよね。妹を溺愛するお兄ちゃん。うん、そんな感じだった)
 「……」
 桜色の唇を、ほうと溜め息が割った。その後を追うように呟きが洩れる。
 「やっぱり敦賀さんはすごいわ…」
 愛を否定する少女は、ますます自分も頑張らなくてはと拳を固める。自分の背中を見ている青年の視線には、気付かないままだった。
 
 
 

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BLACK WOLF&CAT(2)

 コンッ。
 ブーツの踵を小気味よく響かせ、セツカは室内に踏み込んだ。滞在先のホテルの部屋だ。その後ろにカインが続き、まずTVのリモコンに手を伸ばす。丁度始まったニュースをベッドに座って無表情に眺め始めた。
 妹はその背中に覆いかぶさるように抱きついて足をぶらぶらさせながら同じ画面を見ていたが、
 「あ」
 突然小さな声を上げると書き物机に向かった。PCの前に座り電源を入れる。
 「セツ?」
 「ドルが下がりそう」
 振り返った兄に短く答え、バッグから手帳を取り出した。
 「暴落ってほどでもないだろうけど。ドル建ての預金を…円よりユーロがいいかな…」
 「任せる」
 呟きには呟きが返された。ぶっきらぼうな応えは全幅の信頼の証でもある。
 やがてPCが立ち上がるとセツカは軽快にキーを叩き、操作を終えて満足そうににんまり笑った。兄さんを、兄さんの財産だってアタシが守るんだから。
 ついでに会計ソフトを開き、本日の出納を記帳する。
 それも終わると、PCの電源を落としてさっと立ち上がった。付属のキチネットを見遣る。
 「さて、夕飯作ろうっと。何か食べたいものある?兄さん」
 簡易な設備で信じられないほど美味い食事を用意してしまう妹を、カインは無言で来い来いと手招きした。
 「なに?」
 寄って行くセツカの腕を捉えて引き、自分に寄りかかる格好で座らせる。
 「まだいい。お前も少し休め」
 大丈夫なのにと笑って、それでも妹は素直に兄の肩にもたれた。
 「ねえ、兄さん」
 「ああ…?」
 「今日もクールでかっこよかった。ヤバすぎ」
 くすくす笑う。
 「何てったっけ、主演の…あんな男、メじゃないわ。兄さんが一番よ」
 言いながらきゅうと抱きつく妹の頭をくしゃくしゃ撫で、カインは妹の他の誰にも見せない表情を浮かべる。いつもの荒く厳しく不機嫌なそれではなく、ほんのりと、実にほんのりと唇に刷かれる微苦笑。
 「…莫迦」
 呟いた声音には、無上の慈しみが滲んでいた。



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BLACK WOLF & CAT-黒い兄妹-

 昼休憩に入ったばかりで通る者もない資材置き場の陰に、不穏な空気がじっとりと蟠っている。
 「離してよ」
 睨み上げる女の手首を掴んだまま、男は舐めるように顔を近づけた。
 「いーじゃん、そんなに嫌わなくても。同じ現場にいるんだしさ、仲良くしようぜ」
 女は軽く頭を傾け、さも馬鹿にした口調のまま吐き捨てる。
 「何言ってんのアンタ、バカじゃない?なんでアタシがアンタなんかと仲良くしなきゃなんないワケ?」
 「堅いこと言うなよ、そんなナリして処女ってんじゃあるまいし。お互いかるーく楽しもうぜって言ってんだよ」
 男の視線は、冷たく醒めた女の纏う衣装の上をぬめぬめと這っている。ごく短いビスチェや、同様のスカートから覗く肌を、特に念入りに。
 女は短く舌打ちし、両腕に抱え込んでいた荷物から片手だけ離し、びし、と中指を立てて見せた。
 「おととい来やがれってのよイ○ポ野郎」
 「なんだと!?」
 情欲にぎらついていた男の双眸に剣呑な光が浮かんだ。
 「人が優しく言ってりゃこのアマ…!」
 片手を振り上げた時。
 「セツ」
 背後から、低い、しかし痛烈な響きを持つ声がかかった。
 途端に女、セツカの様子が変わる。
 「兄さんっ」
 嬉しそうな声を投げるのへ、陽光を遮る黒い影がすいと片手を差し出す。やはり低い声が、ぼつりと言った。
 「早く来い、腹が減った」
 「うんっ!」
 緩んでいた男の手を振り払い、セツカは兄と呼んだ男に駆け寄る。長身の兄は自分のもとに辿り着いた妹を掻っ攫うように片腕で抱き上げ、そのままくるりと踵を返した。
 「あ……」
 気を呑まれたように立ち竦んでいたナンパ男が溜め息に似た声を洩らす。
 それを一瞬振り返る瞳の冷たさ。獰猛…と呼ぶには静かな、無機質な。まるで、自分には何の意味もないものを見るような。切り捨てるような。
 「…っ」
 震え上がるナンパ男を残し、“謎の俳優”カイン・ヒールは妹を抱えたままスタスタと歩き出した。
 
 
 

 「…さっきのは」
 控室に入るなり、妹を床に下ろしたカインがぶつぶつと切るように尋ねる。妹は兄の口調を気にもせず、さっさとブーツを脱いで畳部屋に上がりこんだ。
 「ああ、ただのナンパ。ああいうカンチガイ系って、どこにでもいるのね」
 さらりと流して折り畳みテーブルを出し、手際よく昼食の用意を整える。
 セツカ曰く、
 『兄さんはアタシの作ったものしか口にしないのよ』
 というわけでクランクインからこちら、カイン・ヒールは一切の仕出しや弁当の類を断り、控室等にこもるか他の共演者たちと離れて妹の用意した弁当を摂っている。セツカの外見にそぐわぬ料理の腕は、偶々通りすがりに目にした者たちの密かな話題になっていた。近寄りがたい酷薄な雰囲気を撒き散らすカインを憚り、声をかけて来る者こそいなかったが。
 そして1週間ばかりが過ぎた今日、現れた勇者はセツカの派手ななりから短絡的行動に及び…
 凶猛な番犬(番狼?)に一蹴されて尻尾を巻いた、というわけだ。
 「さ、兄さん。ちゃんと食べてね、スペシャルセツカランチ」
 「ああ…」
 隣に座ってすらりと宙を撫でる妹の手を追ったカインの視線が、ふとある一点で止まった。白い手首に赤く残る男の手の跡。通った鼻筋に皺が寄る。
 それに気付いたセツカはツと兄に視線を流した。
 「心配しちゃった?」
 揶揄の響きを帯びた問いに直接は答えず、黒ずくめの男は相変わらず吐き零す調子で呟いた。
 「あまり人気のない所には行くな」
 「はいはい、気をつけるわ」
 クスクス笑うセツカは、冷淡な態度の中、自分だけに向けられる兄の甘さを敏感に嗅ぎ取っている。
 「でも、兄さんが見つけてくれるでしょ、いつも」
 広い肩にしなだれかかれば、ちりと空気中を静電気が走った。
 「セツ」
 「…はぁい…」
 睨まれたセツカが不服そうに口を尖らせる。しかし兄もまた妹を知っている。ふたりきりの兄妹。互いだけが互いに近しい二人であれば、その虚勢も真意も膚で感じ取ることができる。
 ふ、とごく僅かにカインの薄い唇が緩んだ。他人にはほとんど感じ取れない程度に。
 「わかればいい」
 妹の頭を掻き寄せて自分の肩に乗せる。セツカもごく薄く微笑み、兄に擦り寄りながら箸に手を伸ばした。
 「ね、兄さん。どれから食べる?」
  

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