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無敵のマヨネーズライス(2)

 キョーコの住まいは、古いし狭いが清潔にしてあって、乾燥させたハーブの何とも言えず調和した香りが漂っている。
 蓮は家の中で詳しい話をと招かれ、居心地よく整えられたソファスペースに落ち着いて出された香茶を優雅に啜った。茶もうまいが、ふと気付いたソファの継ぎがうまく模様に隠されている様子に器用なものだと感心していると、キョーコがチラシの裏を利用したメモを構えて向かいのソファに座る。
 「ええと…龍に使う眠り薬、で…相手の種類と、大体の大きさわかります?一回分でいいんですか?」
 「そうだね、念のために2回分あった方がいいかな?相手は緑龍で…体長20mくらい」
 「20mの緑龍…まだ若い方ですね」
 メモを取りながらキョーコが呟く。そう、このくらいなら成竜にはなっているが、もっと年を経てより大きくより知恵を蓄えた個体に比べればほんのわずかながらましだろう。それなりに勉強はしているようだ。…いや、そうだ、そういう子だった。最大限の努力を何にも惜しまない。昔から。
 思わず口元を綻ばせる蓮に気付かず、新米魔法使いはチラシメモを手に大きく頷いた。
 「とにかく、やってみます。他にも何か情報が手に入ったら教えて下さいね」
 「わかった。じゃあ、これ半金ね。支度金込みで」
 蓮は懐に手を入れてひとつかみの金貨を机に置く。
 「えっ!?こんなに!」
 「だって、龍にも効く眠り薬じゃ材料費だって相当かかるだろう?その辺りをケチって、効果もないような薬を作られても困るからね」
 「そ、そんなことしません!お金がないなら足で稼げばいいんです。ちゃんと山に薬草採取に行きますから!」
 「ひとりで?」
 「勿論です!」
 「そう…」
 胸を叩かんばかりのキョーコに、急に表情を沈めた蓮は貫くような視線を当てた。
 「な、なんですか…」
 「却下」
 「え?」
 「今から一人で山に薬草採取なんか行ったら、帰りは夜になるだろう?君は女の子なのに、何かあったらどうするんだ」
 「何言ってるんですか、私だって魔法使いの端くれです。自分の身を守るくらい…」
 「まともに魔法も発動させられないのに?」
 「…!」
 カリスマ魔法使いの言葉に、キョーコは吐息を噛んで黙り込んだ。俄かに重くなる室内の空気に耐えかねたか、蓮は咳払いを一つすると声を改める。
 「…とにかく。そんな時間をかけるよりも、材料は店で買って早く調薬にかかってくれないかな。費用が足りないなら追加するから」
 放り捨てるように言い、輝きをふりこぼす金貨の上にまた倍ほどの金貨を積み上げた。
 「ちょ!?こ、こんなに要りませんよ!?」
 「いいから取っておいて。そのかわり薬を急いで作って、出来次第俺の所に届けて欲しい」
 「でも、あの」
 「頼んだよ」
 蓮はすいと立ち上がり、辞去の様子を見せる。キョーコは困惑も露わに端整な顔を見上げるが、引き止めるような言葉は出て来なかった。そのまま、足早に玄関へ向かう。と言ってもひと間の住まい、ドアはもうすぐそこに見えている。
 磨き込まれてつるりと光るドアノブに手をかけ、彼は小さく息を入れた。このまま、悪感情だけを残して彼女のもとを去るのか、今日も。
 ほとんど衝動的に、室内を振り返る。意外にも、キョーコは彼を見送るためにすぐ後ろまで来ていた。ちょっと見開いた目を、蓮はほんのわずか緩める。
 「君、さ。キョウトの出身だっけ?」
 「え?あ、はい。そうですけど…」
 「少しだけ、イントネーションが浮かぶね。呪文を唱える時」
 「…え」
 「それじゃ」
 蓮はするりとドアを抜けた。彼女との空間が隔絶する直前、大きな、印象的な瞳に理解の色が浮かんだように思った。



 「うーん…」
 みっちゃみっちゃ。蓮の置いていった金貨の中から大半を材料費として分け、これくらいかと当たりをつけた“前金”でキョーコはマヨネーズライスにありついていた。久しぶりに稼動した炊飯器の上げる細い蒸気が、目にふくよかな幸せをもたらす。
 その向こうには、魔法薬用のかまどが二つ。片方は龍の鱗が表皮を剥がすためにとろ火でじっくり炙られ、もう片方には他の材料がくつくつと低い音を立てて煮込まれていた。
 そんな室内で、温かい食事を噛み締めながらキョーコは、同様に蓮が置いていった言葉についても熟考してみる。
 呪文を唱える時に、出身地のイントネーションが浮かぶ。と言われた。それは、韻律言語魔法において致命的な欠陥となり得る。自分は、正しく呪文を唱えられていないのか。
 「訛は消したつもりだったけど…どうかすると出ちゃうのかな」
 それが、高等魔法を自在に駆使する、それだけ耳のいい蓮には聞き取れた、と?
 どこかから吹き込む隙間風に、壁に取り付けられた灯皿の火灯りが揺れる。考え込むキョーコの影が壁で躍り、こそりと呟いた。
 「なんか悔しい…」
 彼の思惑にはまるようで。しかし、だからと言って。自分がちゃんと魔法を使えるようになるのかもしれないなら、試してみない手はないとも思う。
 キョーコは油が心許なくなったのだろう、一段うすくなった灯火を見つめながら深呼吸した。
 呪文を紡いでみる。一語一音、ひとつも韻律を外さないように。
 「…輝きわたりて闇を打ち払わん
 「リス・ティーフ」
 そっと宙に差し上げた掌の上には…

 
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無敵のマヨネーズライス(1)

 「四方を護りし聖なる獣の名において…
 「我が求めに応え現れよ、疾風の陣!」
 呪文を唱え終え、高く宙に印を放つ。すい、と上がった光が一瞬収縮し、光度を増した。同時に、その周囲に螺旋を描く風が立つ。
 これは、いけるかしら…!?
 こくりとキョーコの喉が鳴った。今度こそ、まともに魔法を発動させることができるのか。
 どうにもこうにも失敗続き、なぜ魔法使いと名乗ることを許されたのか周囲に訝しがられるばかりの新米ウィッチは期待に溢れた眼差しを自らの構築した力場に注ぐ。
 …が。
 ひょろひょろひょろ…ぽて。
 弾けて風となるはずの光球は、突然明度を落としたかと思うと力なく地に落ちた。
 「…うう…また失敗……」
 がくりと細い肩が落ちる。
 「こんなことじゃ、ちっとも売れ残りの固パン生活から抜け出せないわ…!」
 せめて、せめてほかほかのごはんにマヨネーズをかけて食べるくらいのことはしたいっ…!!ささやかな住まいのささやかな庭で、涙がちょちょ切れるほどささやかな夢を握ってキョーコは叫ぶ。その時、背後で『ぷっ』とやけに可愛らしい音がした。
 「!?」
 慌てて振り返る彼女の視線の先には、口元を押さえてはいるが明らかに目もとを緩ませている天敵の姿。常々唐突に現れてはキョーコを馬鹿にするのを趣味とする(としか思われない)艶麗比類なきカリスマウィザードの。
 「つ、敦賀さん!!」
 見られた。魔法の練習、それもまた失敗してるところを。よりによってこの人に。狼狽する新米魔法使いに、笑いを収めた敦賀蓮は軽く片手を挙げ、宥めるような仕草を見せる。
 「やあ、最上さん。今日もご苦労様」
 「!?
 「むっ、無駄な努力をって意味ですか!!?わざわざそんな嫌味言いに来たんですかっ」
 キョーコは噛み付くが、男は動揺も見せずにまさかと肩を開いた。
 「違うよ、君に仕事を頼もうと思って」
 「は!?何仰ってるんですか、貴方が私に頼むようなことがあるわけありません!」
 「ところが、これはさほど得意でない、ってことは俺にもあってね」
 しれっと言われて、キョーコは疑わしそうに黙り込んだ。
 「…なんですか」
 仕方なく尋ねる。いったい何を言うつもりなのか知らないが、とっとと用を済ませて帰ってもらいたい。そんな心中を知ってか知らずか、蓮は澱みなく話し始めた。
 「うん、実はね。君にある薬を作ってもらいたいんだ。何しろ君は、呪いの人形(ひとがた)作りと調薬の腕はやたら抜きん出てるからね。魔法使いになれたのも、そのおかげだろう?」
 最後の一言が余計だが、一応は認めてくれている部分があるということだろうか。キョーコはそろそろと、鼻先のしわを一本だけ減らした。しかし疑問は残る。
 「どうしてそんなこと、知ってるんですか…?」
 「…校長に聞いた」
 一種個人情報の漏洩ではないだろうかと彼女は思ったが、蓮は魔法学校の校長のお気に入りだとか縁続きだとかいう噂もある。諦めて話を進めることにした。
 「どんな薬が必要なんですか?」
 「ああ、眠り薬。魔獣用のね。退治の依頼を受けたんだけど、なかなか大変な相手でね。人里に近いところに棲んでるから、あまり派手なこともできないし」
 意外に…マトモな依頼…?また一本鼻のしわが伸びる。
 「魔獣は何ですか」
 「ん?龍」
 「はああ!!?」
 キョーコはぶっ飛んだ。さらりと、そんなさらりと。龍退治とか言わないで欲しい。だってアレは超古代から生息する大いなる種で、体躯は雄大にして知恵は深甚、そんじょそこらの魔法使いじゃ目を合わせることすらできない最強生物だ。それを、まさかまさか一人で相手にすると!?
 彼女の心を読んだかのごとく、エリート魔法使いはうんうんと腕組みしながら頷いた。
 「ね、大変な相手だろう?」
 「たっ…大変どころの騒ぎじゃありませんっ!そ、それまさか、お一人で…!?」
 「まあね。だから、君の薬が必要ってわけ。
 「ということで。どう、受けてくれるかな?もちろん謝礼は支払うよ」
 蓮はにこりと笑う。
 普段、その笑顔でもって散々おちょくられているキョーコは条件反射のように身を引いたが…
 しかしである。切実な事情が彼女にはあった。
 魔法がどこまでもへっぽこであるという評価が先走って調薬や人形作りの依頼すらほとんど来ず、したがって彼女の収入は著しく低い。家計簿を見ていると泣きたくなってしまうくらい低い。
 よって彼女は、仕事を選り好みできる立場には、ない。
 かくて新米魔法使いは、悔し涙を飲んで天敵の前に膝を屈したのだった。
 「お、お引き受けします…」
 

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シアワセの桃茶(peach tea no1様に捧ぐ)

 その日。
 認めるけれど、俺は機嫌がよかった。
 彼女に会えるとわかっていたから。
 朝から2つ3つの仕事をこなし、昼過ぎに次の収録が待つTV局に入る。トーク番組のゲストとして出演するためで、もう一方の女性ゲストが彼女だと聞いていた。
 敏腕マネージャーの方も心得たもので、さりげなく常より早めの入りを設定してくれているのが嬉しい。
 楽屋に案内され、中に入りかけたところで背後の軽い足音に気付いて振り返った。
 「あ、キョーコちゃん」
 どうも、同時や先に彼女に気付いても、声をかけるのは社さんに遅れてしまう。いいですよね貴方は、顔を作る時間が要らなくて。などと考えながら、素早く温厚紳士の仮面を装着した。そこでやっと彼女に向き直る。
 「敦賀さん、社さん。おはようございます!今日はよろしくお願いします」
 最上さんは発声のしっかりした、明るい声で言ってきちんと頭を下げてくれる。相変わらず礼儀正しいな。自然に浮かぶ微笑と共に挨拶を返した。
 「やあ、おはよう最上さん」
 「おはよーキョーコちゃん」
 …くっ…さらっと名前呼びする社さんが少し憎い。俺だってキョーコちゃんと呼びたい。いやむしろキョーコと…
 いつの間にか固定されてしまった先輩後輩の距離感がもどかしくて、こっそり奥歯を噛む。社さんを睨んだりしないように。
 だけど俺のそんな心境を敏感に察知したらしく、マネージャーは少し慌てた様子になった。
 「あ、ああ蓮、俺、あの、飲み物買って来るよ。何がいい?」
 「楽屋にお茶とか用意されてるんじゃ?」
 まずい。気を遣わないで下さいと伝えたかったのに却って声が冷えてしまった。ますます困った顔をする社さんに何とかフォローをと口を開くと、俺の言葉が出るより先に最上さんがにっこり笑った。
 「それなら私、いいもの持ってますよ」
 ちょっと楽屋にお邪魔していいですか?と嬉しいことを聞いてくれるので、もちろん歓迎だよと答える。心から。
 ドアを押さえて彼女と社さんを通し、後に続いた。社さんがいなければ、このまま鍵をかけたいところ…いや余計な色気を出すな俺。反省はどうしたんだ。
 奥の化粧台の端に、やはり茶道具が置いてあった。最上さんがお邪魔しますと言って畳に上がる。きちんと靴を揃える仕草が綺麗で、少し見とれた。
 「少々お待ちくださいね」
 続いて靴を脱ぐ俺と社さんを等分に見て、彼女はまっすぐ茶道具に歩み寄る。ポットの湯量を確かめると、肩にかけていたトートを下ろして中から何か取り出した。
 ごそごそ、カチャ、ぽさ。こぽぽぽ…
 普段なら気に留めることもない、生活感のある音に俺は聞き入ってしまった。彼女が立てているというだけで、こんなに好ましい音に感じられるなんて。
 「はい、どうぞ。こんな茶碗ですけど」
 目の前に湯呑みが差し出された。
 「ああ、ありがとう」
 少し夢から覚めたような気分で受け取ると、やわらかく漂いのぼる湯気の中に、ほんわりとまるく浮くフルーツの香り。
 「桃の紅茶?」
 「はい。それだけじゃないんですけど」
 最上さんは笑顔でさあさあ飲んでみて下さいと勧める格好をした。言われるままにひとくち含んでいる間に、彼女は社さんにもお茶を渡す。
 「やさしい香りだね。何だか元気が出るよ」
 俺が言うと、嬉しそうに笑ってさっきバッグから取り出したものを見せてくれた。
 「これなんですよ」
 手渡されたシンプルなアルミの袋をしげしげ眺めると、真ん中に張られたラベルに『小桃』の文字。いかにもピーチのフレーバーティーらしい名前だ。
 俺はラベルを更に読む。なになに、ジャワティーをベースにピーチの香りを乗せ、…ん?
 最上さんの顔に視線を戻す。少しいたずらっぽい微笑を見つけた。
 「気がつきました?はい、それ、蓮の花が入ってるんです。『小桃(ことう)』は、その蓮の名前なんだそうですよ」
 ちょっとすいません、と最上さんは俺の手からアルミ袋を取ってティーバッグを一つ取り出す。ピラミッド型のナイロンメッシュの中、黒っぽい茶葉に白いものが混じっている。
 「滋養強壮の薬効もあるとか…香りにもお茶自体にも癒されるなんて、敦賀さんみたいですよね!大好きになりました」
 「え」
 俺は急いで自分の口元を押さえる。香りとか癒されるとか…大好きとか、勘弁してくれ顔が笑う。
 目を逸らした先に、社さんのニヤニヤ顔。ああ、また遊ばれる…
 そう思いつつも、どうしようもなく顔が緩むのを止められない。
 最上さんはにこにこと自分の分のお茶を飲んでいる。
 まったく、なんて娘だ。こんなに簡単に俺の気分を左右して…
 幸せにして。
 「敦賀さん、このお茶お気に召しました?よかったら少しお分けしましょうか」
 俺の幸福感を少し誤解したらしく、最上さんが聞いて来る。俺はいいのかい?ありがとうと頷きながら、とりあえず心にメモをした。

 最上さんは、桃の紅茶が好きらしい。
 
 
 
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惣て君に(相互リンク記念&お礼→惣也様)

 「あのっ!」
 何だか勢いよく彼女に話しかけられたのは、所用と移動に挟まれた小さなスキマ時間。
 俺のマネージャーはLME俳優部の松島主任と打ち合わせ、ついでにタレント部にも顔を出して某少女のスケジュールもゲットして来るからな~♪と軽やかに別行動、
 某少女の相方はドラマの撮りだとかで今日は不在。
 のラブミー部々室に2人きり。
 「何?」
 ダダ洩れの上機嫌のまま笑う俺に、某少女・最上さんは『うっ』と一瞬顔を背ける。時々見る反応だけど、どういう意味なんだろう。
 考えている俺に彼女は恐る恐ると言った形相で顔を向け直すけど、なぜかどうしても目が合わない。
 「え、ええとその、少々、お願いが…」
 やっと言うので、俺は即答した。
 「何でも言って」
 少し勢い込みすぎたか?
 と思ったがラブミー部員1号に気にした(というか気付いた)様子はなく、俺以上の勢いで一気に言った。
 「ではお言葉に甘えましてっ!あの、髪の毛を一本戴きたいんですっ!!」
 「え」
 髪の毛。俺の?
 何にするんだろう…と思うと彼女の場合、おまじない系の連想が一番に浮かぶ。彼女が俺に恋のおまじないでもかけてくれるならかかったフリをする気満々…いやその、大歓迎なのだけれど、たぶん違うんだろうなあ。
 「いいけど、何にするの?」
 尋ねてみる。答えは、
 「はい、マリアちゃんに魔除けのお守りを頼まれまして。ここはひとつ、敦賀さんの類稀なエナジーを分けて戴きたく!!」
 「ふうん…」
 まあそんなことだと思ったけど。
 「えと…ダメ、ですか?」
 俺の声が僅かに低まったのに気付いたらしい。最上さんはしゅんと縮んで下から俺の顔を見上げて来る。今度『うっ』と洩らしたのは俺の方だった。
 「いや…構わないよ。ハサミある?」
 「あ、はい!」
 きちんと持ち手を向けて差し出された鋏を受け取り、前髪を一本切る。
 「ありがとうございます!」
 喜色を浮かべた彼女の手に、しかし俺はまだそれを渡さなかった。
 椅子を立ち、ちょいちょいと手招くと、最上さんは首を傾げながらも素直にトコトコ寄って来る。
 俺は切り取った髪の毛をぴよぴよ指先で弄び、目の前に立つ愛しい鈍感少女に囁いた。
 「これを渡すのは、君の言うエナジーを渡すってことなんだよね?」
 「え、あ、はあ」
 左様でございますが…とぼんやり呟く最上さんに、俺はこっそり苦笑した。いつまでもそんなに鈍いから、こんな目に遭うんだよ?
 さっと手を伸ばす。彼女をつかまえ引き寄せた。
 「…え」
 呆けているのを優しく、でもしっかり抱き締める。
 「あ、え、あの、つ、敦賀さんっ…!?」
 「じっとして。俺が渡す分のエナジーを、君から補給してるんだから。それでプラマイゼロだろう?」
 「え、え、え…でっでもそんな」
 うろたえまくる少女が得意の台詞を吐いた。
 「はっ破廉恥です~!!!!」
 「ノー。ギブ&テイク」
 きっぱり言い切ると、彼女はもぞもぞうごうご蠢きながらも口を閉じた。いいこと幸い、腕にもっと力をこめる。
 「あ、あの、いつまで…」
 すこし震える最上さんの声がたまらない。ごめんね、こんな男が君の尊敬する先輩で。でも俺がなりたいのはそんなものじゃないんだ。
 「あと10秒」
 「うう…
 「…………
 「じゅ、10秒たちましたが」
 「あと20秒」
 「つ~る~が~さ~ん~!!」



 「お待たせ、蓮」
 しばらくして戻って来た敏腕親切+特技アリの有能マネージャーを、俺は極上機嫌で振り返った。
 「いえ、ちょうどいい時間ですよ」
 「?」
 社さんは一瞬目を見開いたあと、まず真っ赤になって背を向けている最上さんを見、次に少し冷えた目で俺を見る。カンのいい人だなあ。
 「さ、行きましょうか」
 俺は何食わぬ顔で促し、さっさと立ち上がった。
 「じゃあまたね、最上さん」
 ほんのさっきまで堪能していた少女に声をかけると、彼女は振り向かないままかすかに頷いてよこす。
 「はい…」
 ほらまた。こんな状態でも律儀に返事をするから、俺は赦された気分になるだろう?
 彼女の香りをつかまえるように宙で拳を握り込み、言ってみた。
 「今度、俺にも一つ作って欲しいな。君の髪入りで…貰ったエナジーは、俺が補給してあげるから」
 「△%$□#○~!!!」
 何語かわからない叫び声に追い立てられて、俺は社さんと共にラブミー部々室を出る。呆れ顔のマネージャーににっこり笑いかけながら、考えていた。


 と言うよりむしろ、髪の毛一本と言わず、俺を全部君にあげたいところなんだけどね。


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