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たいせつでたいせつで(175)

 奏江の声だった。問う相手は、当然キョーコだろう。
 と思えば、先を聞きたいようでも聞きたくないようでもある。そもそも何に対しての…
 気持ち、という単語につい反応してしまう自分がいじましいようにも思えて、クオンはこっそり息を吐いた。気を取り直してドアをノックするか引き返すかと瞬時迷う。
 すると今度は、キョーコの声がした。
 「…わかんない。でも…違う、と思ったの。クオンはショーちゃんとは違う、って」
 少年は全身をコーティングでもされたような心地を覚えた。違う、とは何だ。何がそうなって、彼女はあんなに困った声を出しているのだ。
 無意識に、自分の肩に触れた。夏祭りのあの夜、しがみついて震えていた小さな手につけられた痣はとうに消えている。
 そう言えばその少し前にも、彼女から『違う』という言葉を聞いたではないか。
 あの後、キョーコを追いかけて連れ戻したマカナンにもちろん成り行きを聞いてはみたが、もちろん教えてもらえなかった。はなから期待してはいけないレベルの話なので仕方なく諦めていたのだが、もしや今のこれは、あれと関連しているのだろうか。
 霊感のように思い、クオンはそこで眉根を寄せた。
 今聞いた声調子では、どうもいい意味には受け取りにくい。キョーコの小生意気な幼馴染と『違う』ことが何を意味するのか、自信が持てなかった。
 もう帰ろうか、とさえ思ってしまう。
 実際にそっと爪先に体重を移しかけた時、暫しの沈黙を破って再びキョーコが言った。
 「だってね、だって。クオンは、ね。その…
 「独り占め、したくなるの」
 (…!)
 危うく手を緩めるところだった。慌てて盆をつかみ直し、震えるような呼吸を詰める。
 独り占め。どういう、意味合いで。いや、そんなものどうでもいい。
 嬉しい。
 嬉しい。是非してくれ、と言いたい。ああだけど、そんなこと言われたらきっともう抑えが効かない。
 キョーコを自分こそが独占して、片時も離さず抱きしめて、抱きしめて、抱き…
 (だから、駄目なんだってば!!まだ!)
 振るい落とすようにかぶりを振った。キョーコはまだ幼いし、それ以上に、自分が大人になっていない。そんな状態で閉塞的な関係を築くことは、絶対に彼女のためにならない。彼女を守ることにならない。
 クオンにはわからなくなった。
 結局、自分はいまどうしたいのだろうか。キョーコのために何ができるのだろうか。こんな風に、ちょっと会えないからと言って口実を捏ね上げ、変装までして会いに来る他に?
 自分の吐いた溜め息に押されるように、彼は踵を返した。そっと階下に降り、勝手知ったる廊下を台所へと向かう。ちょうど、おかみが高い戸棚から鍋を出そうと難儀していた。
 「これですか?」
 盆と差し入れ袋をテーブルに置いて手を添えると、おやクオン君ありがとうと笑顔を向けられる。
 振り返ったおかみはテーブルの上の盆に気付き、あれと言った。
 「持って戻って来たのかい?もしかしてキョーコ、いなかった?」
 出かけるとは聞いてないけどねえ、と首を傾げるのへ、彼は苦笑混じりに首を振った。
 「いえ…でも何だか、女の子同士の話、って感じで入りにくくて」
 「おやまあ」
 「今日は帰ります。気を遣わせるといけませんから、俺が来たことはキョーコちゃんには内緒にしておいてください」
 「え、でも」
 「あ、これは皆さんでどうぞ」
 差し入れ袋を指してクオンは微笑む。中身はキョーコの好きなケーキ屋の箱に、キョーコの好きなオレンジジュース。開けた瞬間の顔を見たかったけれど。
 「じゃ、失礼します」
 しきりにすまながるおかみに気にしないでくれと笑顔を向け、見送りも断る。あくまでも自分の問題だとわかっていたので、恐縮の底にうっすら刷かれた不審も当然だと思った。






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たいせつでたいせつで(174)

 街の色が落ち着き、風も冷えて来た頃。
 日本企業製コンパクトカー『FIRST LOVE』のCF放映が開始される。
 少女たちの初々しい可憐さ愛らしさ、少年の切ないまでの美貌、ゴージャス極まるヒズリ夫妻、更にはマカナン監督のこだわり抜いた映像美。それらによって、このCFは商業的な意味を超えて人々に広く受け入れられた。『FIRST LOVE』はcawaii車の代表となり、WEB用ロングバージョンCFは連日すさまじいアクセス数を記録した挙句にサーバをダウンさせまくり…
 当然のように、二人の高校生の身辺も騒がしくなった。
 特にキョーコは本人と保護者の意向により身元を伏せられていたため、余計に取材陣の熱を煽ったようだ。
 この(ある意味)危機に際し、効果的にキョーコ保護のプログラムを組んだのはクー・ヒズリの有能なるマネージャー氏、おかげでクオンは暫しの間彼女と共に行動することを禁じられてしまった。
 そこで彼が平気なら、キョーコバカは名乗らない。
 悶々とする少年のもとに届いたのは、はるばる日本からやって来た封筒…
 

 
 黒髪黒瞳、すらりと長身の青年が優雅に歩を運ぶ。愛しい少女にもう2週間以上会っていない、折角同じ高校同じ学年となったのにこれではと気が逸る。すこし強めの風に髪を気にする風だが、彼は歩速を緩めようとはせずに街を往くのだった。
 通い慣れた道を辿り、通い慣れた日本風家屋へ。彼の住む邸宅に比べればごくささやかだが、彼にとっては他のどんな場所よりも価値のある建物だ。
 「ごめんください」
 訪日前の特訓によってだいぶ滑らかになった発音で訪いを入れれば、だるまやは開店準備を始める直前のこと、おかみが忙しそうにはいはいと玄関に出て来た。
 「いらっしゃい、久しぶりだねクオンく…」
 朗らかに言って横に引く戸を開け、彼女は、そこで怪訝に動作を止めた。
 「ん?」
 言い切ったのか不審の声なのかは判別できない。首を傾げたままたっぷり5秒彼の顔を見上げ、おかみは
 「だよ、ね?声が…」
 ちょっと自信なさそうに言った。
 「そうです。まあ、用心のための変装、ですね」
 自分の髪先を引いてクオンは笑う。今回はウィッグを使用しているが、いずれにせよ、おかみと言うかだるまや夫妻は蓮の姿を見ていない。不思議そうに目を丸くし、それでも笑った。
 「ふうん?大変だ…でも、キョーコのためなんだよね。ありがとう」
 「俺が会いたくて、だから自分の我儘です」
 ふくふくとおかみは笑って、まあお上がりよと右肩を引いた。
 「キョーコは自分の部屋にいるから。友達が来てるんだけど、クオン君も知ってる子だから大丈夫だと思うよ」
 「ああ…琴南さんですか?」
 「そうそう。学校が違っても仲良くしてくれて、ありがたいねえ。あ、あとでお茶を持っていくから」
 先に立とうとして振り返るのへ、クオンは軽くかぶりを振りながら持参の袋を持ち上げた。
 「いえ、忙しくなる時間ですし、お構いなく。飲み物は差し入れ兼ねて買って来ました」
 「おやおや…じゃあ、グラスだけ渡そうかね」
 「お願いします」
 クオンは元来父譲りのフェミニズムが身に着いているが、キョーコの母ともなれば一層粗略には扱えない。にこやか和やかに会話を進めた。
 盆に3人分のグラスと菓子皿を載せてもらい、それを持って一人でキョーコの部屋のある2階へと向かう。特に装飾もない地味なドアをノックするために、手荷物を片手に移した。
 と、ドア越しでも明瞭な発音の声が聞こえて来る。
 「じゃあ、気持ちは変わったの?」





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たいせつでたいせつで(173)

 「するとつまり」
 「俺は日本行き以来、ろくに進展もなしに帰って来たよごめんね」
 もう言われ飽きていたので、クオンは早口で父の先回りをした。
 米国はヒズリ邸の居間。息子の帰国に合わせて早めに帰って来た父は、土産のジャパニーズマンジュウをひょいひょい貪りながら話を聞いていたのだが、子供たちの気になる動向にさしたる変化がないと知って2箱めの蓋に手をかけた。
 …関係ないか。
 「いやまあ、謝ることでもないが…」
 アクションスターが手元の割にスマートに肩を竦めるので、クオンは呆れると同時にふて腐れているのも気恥ずかしくなる。
 「…だって、しょうがないんだよ。とっくに心が決まってるはずなのに、何度でも揺さぶられて掻き乱されて、その度にどうしたらいいかわからなくなるんだ」
 もそもそ呟くのを、クーは黙って聞いている。頬がぱんぱんに膨れているのは気にしないことにして、少年は短く息をついた。
 「キョーコちゃんみたいに、信じられないくらいの重圧を背負ってても泣いたままにならない強さはどこから来るのかな…」
 それから彼は、何か思い出した目をした。
 どうした、と問われ、ほわりと微笑む。
 「父さん、キョーコちゃんの手、綺麗に治ってたよ」
 手を取った時、肌に触れた時。彼はそれに気付いて喜んだものだった。虐待の傷跡なんて、ひとつも残らず消え失せればいい。体からも、心からも…いつかは。
 「そうか」
 父が深く頷く。意味を正確に解したのだろう、その口元にも安堵の微笑がかすめている。
 「まあ、まだ時間はあるんだ。頑張れ」
 クー自身、愛息の想い人としてだけでなくキョーコを気に入っている。励ましには真実味がこもっていて、少年の頬を照れ臭く緩めさせた。
 「わかってる。キョーコちゃんからも時間作ってもらったんだ、頑張らないわけに行かないよ」
 「うん?」
 父が目を瞬いている。そう言えばまだ言ってなかったな、わざとだけど。とクオンは心中で悪戯に笑った。驚かそうとタイミングを計っていたのだ。
 「一緒に高校へ行けることになった」
 「って…おお、もしかしてキョーコはまたスキップしたのか!?」
 少年が頷く。
 「そう、しめて4学年」
 出っ腹の映画監督の言葉を借りれば、アクションスターは諸手を拡げて喜色を表した。
 「おかげで高校生活を同学年で過ごせるわけだ。すごいなキョーコは!」
 二人ともわざわざ口に出しはしなかったけれど、キョーコにはブランク期間もあったのにという思いがある。少女の能力もだが、その努力が素晴らしい。況してそれが自分もしくは愛息の幸福に繋がるとなれば…
 父子の周囲に花と点描が飛ぶのもやむを得まい。
 「新学期が楽しみだな、クオン?」
 「当然だよ」
 わざとらしくつつくように笑うクーに、少年は澄まして頷く。初めて抱擁が受け入れられたことは、勿体ないから秘密にしておいた。





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たいせつでたいせつで(172)

 「ふう…」
 さわつく空気の中に、小さな吐息がこぼされる。
 「疲れた?」
 隣を歩く長身の少年が問うと、キョーコはううんとかぶりを振った。
 「違うの。なんかね、湿度が全然違うから変な感じがして」
 「ああ…確かに、日本て言うかアジアは湿度が高いよね。それで肌がきれいなんだとか言うけど」
 クオンは自国の空港の中を見渡し、確かめるように深く呼吸している。視線を戻したかと思うと、少女の顔を見ながら言った。
 「キョーコちゃんは、アメリカで何年か暮らしてても肌がきれいだね」
 「こっちの人だって、きれいな肌の人はいるじゃない…」
 「長持ちしにくいけどね」
 自分の頬に触れ、俳優でもある少年は次にキョーコの頬をつつく。
 後ろからマカナンの声が飛んで来た。
 「こら坊主、ドサクサに紛れてベタベタしてっと困ったことになるぞ」
 「何ですか人聞きの悪い」
 苦情を申し立てるクオンに、彼はホレと前方を指差す。つられて動かした瞳に映ったのは、
 ぬーん、と眉間に皺を刻んで仁王立ちするだるまや大将だった。その横で、おかみがにこにこと手を振っている。片手にひらひらと持っているのは…封筒、だろうか?
 「おとうさん、おかあさん!」
 キョーコがぱたぱたと駆け寄って行く。
 「ただいま帰りましたっ」
 「お帰り、キョーコ」
 ちゃ、と言いかけたのを敢えて飲み込んだらしい。実際に母となるおかみはにこにこと娘を迎え、封筒を彼女に手渡した。
 「はい、これ。手続きは済ませておいたからね」
 「え、あ」
 キョーコは中身に心当たりがあるらしい。母と寡黙ながらもマカナンと久闊を叙している父、それからクオンの顔までも大きな瞳で見比べた。
 「手続きって」
 問いかける彼女に、おかみはいつものふくふくした笑顔を向ける。
 「おめでとう」
 「…っ!」
 途端に、ぴゃっと跳び上がったキョーコが大慌てで封筒を開いた。さっと目を走らせ、ばっとクオンを振り返る。
 「???」
 わけがわからず首を傾げるが、それで引くほど少年のキョーコバカっぷりはやわではない。嬉しそうなのが嬉しいなあと微笑み、理由を問う。
 「どうしたのキョーコちゃん、いい知らせ?」
 もしや手続きとは養子縁組の件だろうかと思ったが、勢いよく頷いた少女は満面の笑顔で封筒の中身を翳してくれた。
 「新学期からも、よろしくね!」
 え、と小さな手の握る紙を受け取ったクオンは、「入学許可」の文字に目を瞠る。まさか。大急ぎで続く文面を読み下せば、キョーコが進学に必要なクレジットを取得し認められた旨、ために入学を許可する旨がしたためられ。最後に、彼の進む高校の名前と校章。
 「キョーコちゃん…!」
 「うお、すっげ」
 横からマカナンが覗き込んでいる。
 「嬢ちゃん、しめて4学年のスキップか。かしこいなー偉い偉い」
 ぐりぐりキョーコの頭を撫で出すが、今だけはその祝福を許そうと思うクオンだった。だって来月から、キョーコと同じ高校、同じ学年だ!
 「俺は反対してたんだがよ。ガキが無理して背伸びするこたあねえってのに…」
 大将がぼやいているのがチクリと来るが、いやしかし、ことはもう決まっている。
 「いいじゃねえか、娘の努力を認めてやれよ」
 たまにはマカナンもいいことを言うと思いながら、クオンは少女を奪取した。頭上高く抱き上げてくるくる回り出す。
 「すごいよキョーコちゃん、ありがとう!!」
 「ひゃ、ちょ、ちょっとクオン!?」
 「おいおい坊主、浮かれやがって」
 映画監督が苦笑しているのもどうでもいい。初めてキョーコから一緒にいるための働きかけをしてくれたのだ、浮かれずにいられるわけがない。
 「ナニ礼言ってんだ、誰もお前のためとか言ってねえだろよ」
 じゃあ、ほかにどんな理由で親友も置き去りに高校へ上がる?マカナンの揶揄は彼の幸福を引っ掻きもしない。
 「ク、クオン、クオンってば」
 彼は真っ赤になったキョーコをぎゅうぎゅう抱きしめた。少女は口では抵抗しながらも笑っている。それも初めてのことだと、気付いたのは両親と去って行く背中を見送ったあとだった。





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たいせつでたいせつで(171)

 「お世話になりました」
 頭を下げるキョ-コのつむじを、不破夫妻は複雑そうに見下ろしている。
 「うちら何もしてへんさかい、そない畏まらんでもええのに…」
 柳眉を下げた女将は少時言葉を切り、そやけどと息をついた。
 「ほんまにあちらはんの子ォになってしまうのん?」
 問われて少女は、はにかみながら頷いた。
 「こんな風に望んでもらえるなんて、夢みたいです」
 「ややわ、うちかて昔っからそない言うてるのに…なあ、もういっぺん考え直し?うちでもええやないの、小っさい頃から馴染んどるんやし」
 「そのくらいにしとけよ、オフクロ」
 意外なことに、女将の繰り言を遮ったのはその息子だった。座布団の上に胡坐をかき、水菓子をもちょもちょ食べていて話は聞いていないように見えたが、そうでもなかったらしい。
 女将が恨めしそうに振り返る。
 「何やのん、この子は。アンタかて一緒に止めてくれたらええやろに」
 「何で俺が」
 鼻を鳴らした少年は頑なに幼馴染を見ようとはせず、その隣で長い脚を持て余す黒髪の青年へと視線を流した。
 「可愛げのねーアホキョーコに逃げ込むトコができたってんなら、いーコトじゃねーの?」
 「またアンタは…なんぼ仲のええ子やからゆうたかて、あほ呼ばわりはよし」
 「あーあーあーうっせー。いーじゃねえか、アホはアホだっつの。大体あんな泣き虫、いっこも仲よくなんかねえよ。誰だあの甘ったれ」
 心当たりを覚えるのか、キョーコは胸を押さえて顔を赤くしている。
 「ふーん」
 社に小声で通訳してもらっていたマカナンが、不意にニヤリと笑った。
 「坊主も結構面白い奴だな」
 「って」
 訳す眼鏡の青年の言葉を聞き、今度はショータローがふてくされたように朱をのぼらせる。
 「ちぇっ」
 吐き捨てると彼は、少年らしい細い手足を振って立ち上がり、そのまま座を外してしまった。
 キョーコは首を傾げてマカナンを見ていたが、幼馴染が乱暴に閉めたために弾んで隙間のできた障子に目を移して曖昧に笑った。
 「えっと…そういうわけで、一旦東京に戻って、あさってアメリカに帰ります」
 表情の割にきっぱり言われた言葉に、日本人夫妻は揃って嘆息する。
 「帰る、なァ…」





 「するってーと、何か」
 カウチにゆったりと寝そべり、マケドニアの英雄王は冷酒をちびちび嘗めている。今日の宝田氏は、マカナン監督の旧作『アレクサンダー』をリスペクト中であるらしい。
 「お前は、来日以来のイベントまみれの日々を、ろくなフラグも立てられずにただ自己完結して終わったってんだな」
 呆れきった視線を、対面に座る金髪の少年は乾いたばかりの前髪を気にするふりをしてやりすごした。
 「余計なお世話ですよ。いいじゃないですか、本人が納得してるんだから。大体、フラグってなんですか」
 「そこがヘタレだっつってんだろが…フラグってのは、ラブラブだのフラレエンドだの、ある結末へ進む分岐点、つうかそのきっかけだな」
 恋愛シミュレーションゲームにハマっていたことのある芸能事務所社長はヒラヒラと手を振る。
 「わざわざ解説ありがとうございます。聞きましたけど聞いてません」
 「なんだ、可愛くないな…あのお嬢ちゃん以外にはてんで素直じゃないんだな、お前」
 余計なお世話です、ともう一度言おうとするクオンを、大王はあくまでニヤニヤと眺めている。
 「まあそれも愛か。結構結構」
 「……」
 否定したいような、できないような。少年はむっつり黙り込んだ。どうもこの父の古い知り合いは、リアクションに困る言動をする。
 「で、もう明日帰っちまうんだろ?」
 「ええ、だからマカナン監督は張り切ってお土産探しに行きましたよ。…キョーコちゃんまで巻き込んで」
 「そりゃしょうがねえだろ、お前は髪色戻さなきゃならなかったしな」
 クオンは不満そうに鼻を鳴らした。別に行きたかったわけではない。ただ、キョーコを取られてしまったのが不満なだけだ。用が終わったら、自分が一緒に出かけたかったのに。
 「まあ今回、監督も少しは役に立ったみたいだから我慢するけど…」
 不満の尾を引きながらひとり呟く。彼がだるまや夫妻からキョーコの親権問題を委託されて来てくれたから、彼女のアメリカ永住はほぼ決定的となった。自分には時間が与えられたわけで、あんなでも大人であるということには意味はあるのだと思う。
 「はあ…」
 本当に、早く大人になりたい。年齢的にも、精神的にも。
 思う心を読んだかのように、宝田が笑った。
 「まあ、焦ってもしょうがないだろ」
 「それは、そうなんですけど」
 複雑なのはどうしようもない。さしあたって、帰国後迎える新学期だ。自分は高校に進み、キョーコはまだ中学生。学生と言うのも自由なようで自由がきかないなあと、彼は短く溜め息を落とした。








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