スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
web拍手 by FC2

妙法蓮華(6)

 「違う」
 ぴしりと遮られ、キョーコは歌いやめて譜面から顔を上げた。
 ピアノの前に座るレイノは小さく溜め息をこぼし、肩から上だけ振り返る。
 「なぜスローパートに入ると急に演歌になる。この前、試しに俺たちの歌を歌ってみた時は普通だっただろう」
 問いの形で指摘され、少女は怒りと恥ずかしさに顔を赤らめた。
 「だって!あれはビート系でこぶしを回すヒマなんてないし、メロディラインも素直だったから。でもこれ、転調が複雑なんだもの。急にスローパートが割り込むと、一瞬カウント取れなくなってメロディがよれちゃうのよ!!
 「まったく、なんだってこんなぐねぐねしたメロディつけたわけ!?私、本職じゃないのに!」
 「…ほぉう…」
 ゆらり、とレイノが立ち上がる。
 「俺の傑作にケチをつける気か…」
 一歩迫られて一歩下がり、キョーコは気圧されまいとそこで踏み止まる。拳を握って叫んだ。
 「ケチなんてつけてないわよ!!
 「いい曲だわよ。綺麗だし、なんでか耳触りもいいし。正直言って、アンタがこんな曲書けるなんてって見直…いえその、ちょっと見る目が変わった気がするわ」
 「なら真剣に歌え」
 ヴォーカリストはクールに言い放つが、ひとふさの後ろ髪がこっそり嬉しげに跳ねている。
 「~っ、だから、難しいんだってばっ!!」
 歯軋りするように言うキョーコに、彼はごく簡単に言った。
 「だがお前は歌える」
 「もー、どうしよう…本番まで大して時間ないのに…
 「……え?」
 意外な言葉を、その意外さのために聞き流しかけていたキョーコは、遅れて脳みそに届いた認識に絶句する。
 「な…に言ってんのアンタ。何を根拠にそんなこと…」
 レイノはひとつふたつ鍵盤に指を落とすと、小さく息を吸ってから少女に視線を向け直した。
 「この曲は、俺がお前のためだけに書いたものだからだ。お前の声だけじゃない、気持ちの在り様、魂のかたちまで探り取り、写して。
 「キョーコ、これはお前の曲だ。お前が歌えないはずはない」
 「ちょっと、なに…気持ちとか魂とか、アンタが言うとうす気味悪いのよ。だいたい、デュエット曲でしょコレ、どこが私だけのため!?」
 「だから…俺の歌、いや、いっそ俺さえもお前のためにあるということだな」
 「はああ!?何それ、一体何のつもり!?」
 「何のつもりも何も…」
 思いっきり顔を歪めるキョーコに怯むことなく、むしろ愉しげにレイノは含み笑う。
 「何企んでんのって聞いてるのよ!!」
 叫びつけられて、そのままの口調で言った。
 「…まあ…何も、とは言わんが」
 「やっぱり!そうそう思い通りにはならないわよっ。敦賀さんには、何かあったらすぐ言えって言われてるんだし!」
 肩を竦めるレイノに、キョーコはびし、と指を突きつける。ヴォーカリストが鼻先で笑った。
 「…ふん」
 「な、何よ、その笑い方」
 「別に。必ずしも、お前に不利益だとは限らんだろうにと思ってな」
 にやりと言われ、キョーコは不審げに口を噤む。が、好奇心が勝った。
 「どういう意味よ、それ…」
 低い質問に男は答えず、赤い瞳をひそやかに眇めた。
 「今日中に仕上げるぞ。次回はスタジオにメンバーを集めるからな」



 「…どういうことだ!!」
 荒い罵声に、ばさばさと紙束をぶちまけるような音が重なる。
 「なんでアイツが、あの野郎と…!!」
 「ああ、もう…」
 溜め息をつく女の声。はすはすと紙を拾い集める音がした。
 「仕方ないでしょう、抽選で決められちゃうんだから」
 「だけど祥子さん!なんでよりによって…っ!」
 「…」
 自分からして、そうよねえ、と思わざるを得ない。女マネージャーはもうひとつ溜め息をつき、手の中の書類に目を落とした。
 富士TV8時間ソングスペシャル『歌は人類を癒す』に参加するユニットの先行発表。その中の、たった一行が問題だった。
 “ビー・グール”feat.“京子”。





→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

妙法蓮華(5)

 「で、どうだった?赤頭巾ちゃんは」
 「…ああ」
 楽譜から目を離したミロクの問いに、レイノはうすい笑みを返した。
 「思った以上に音域が広いし、リズム感も悪くない。あれなら何でも歌える」
 「…へえ     
 「ホント、あの娘に関しちゃらしくない反応するよな。音楽にそんなマジになるお前が見られるとはね…
 「…いや」
 ヴォーカリストを音楽の道に引き込んだと言うドラムスは皮肉めかして笑う。
 「音楽じゃないな。京子を歌わせることに、か」
 「何か問題があるか?」
 「いーや?お前の本気ってのも珍しくていんじゃね?」
 ばさり。楽譜をレイノに返し、ミロクは今度はもう少し素直な笑い方をした。
 「…いい曲だ」
 「ふん…」




 「はあ…」
 所変わってLME本社。大き目の茶封筒を手に、キョーコは珍しく肩を落として廊下を歩いている。
 「もうほんと、嫌になる…」
 「何が?」
 突然聞こえた声に、ぴゃっと飛びあがった。
 「つっ敦賀さん!!いきなり現れないで下さい」
 「俺が先にここにいたんだけどな。部室に行ったらいなかったから、飲み物買って来たところ」
 と蓮はペットボトルのお茶を一つキョーコに渡す。
 「ありがとうございます。あ、今更ですけどおはようございます」
 「ああ、おはよう。それは?何持ってるの?」
 「え」」
 封筒に目を留めた蓮に尋ねられ、キョーコは並んでラブミー部々室へと向かう足を止めた。
 「事務所宛に届いたそうなんです。バカ男2からで…たぶん、今度歌う曲なんじゃないかと。この前、曲ができたら知らせるとか言ってましたから」
 「…この前?」
 「ええ、ボイトレの時…」
 「最上さん?」
 優しく遮られ、キョーコははっと自分の口を塞いだ。しかし洩れた言葉は戻らない。
 「ボイトレって、何の話」
 蓮は先に部室に辿り着いてドアを開け、そこで彼女を待つ。優雅に室内を指す手が、『ゆっくり聞かせてもらおうかなv』と語っていた。
 少女は語るに落ちた自分の浅はかさを呪い、刑場へ引かれる気分で室内へ入る。
 蓮に促されて隣り合わせに座ると、彼女は半ばヤケのように経緯を語る。
 俳優は表情を動かさず黙って聞いていたが、まとう空気が次第に重くなることをキョーコは敏感に感じ取った。
 「…で、ノコノコ向こうの言うとおりに出かけて、まんまと2人きりになったと」
 腕組みの指先で自分の肩を叩く蓮に視線を返せず、彼女はそわそわと座り直す。
 「でも、べ、別にヘンなことはされませんでしたし。本当に、ボイトレだけして」
 「うん、それが終わった後も俺に連絡くれなかったんだね」
 「いえだって、やはりご迷惑だと…」
 「俺が心配なんだ、って言ってるだろう?大体君は、いつもいつも見当外れな遠慮ばかりするし、危険とわかってる相手に自分から近付くし、どうしてそう俺をやきもきさせるのかな!」
 「え、あの…」
 キョーコがおずおず顔を上げた。
 「どうして敦賀さんがそこまで…」
 「え」
 「敦賀さんって…」
 「…あ、え…」
 覗き込むように前に出るキョーコの上半身から、蓮は今度は自分が目を逸らす。少女はそれを追わず、胸の前で両手を組んだ。
 「本っ当、後輩思いですよね!!」
 やっぱり。そう思いつつもヘコタレずにいられない俳優に、キョーコは尊敬に満ち溢れこぼれ出すような瞳を向けて言う。
 「ただの後輩の身をそこまで案じてくださるなんて!やはりバカ男どもと違って、器の大きさを感じます…!」
 「そ、そう…ありがとう」
 他にしようもなく笑顔を作る蓮に、彼女はぐっと詰め寄った。
 「あの、では折角ですからお言葉に甘えて…ひとつ、お願いをしてもいいでしょうか!?」
 「勿論だよ」
 蓮が過去最大の熱心さで即答する。
 少女タレントは嬉しそうににこー、と笑い、机の上に投げ出していた封筒を掲げて見せた。
 「これをいまから開けますので、ついてて戴きたいんです。だって送り主が送り主ですから、何か危険な呪いとかかかってるかもしれません。でも敦賀さんがいて下さったら、きっとそんなもの無効になります!」
 「俺がいればって…お安い御用だけど…」
 根拠などは尋ねてはいけないんだろうか。一抹の虚しさを湛える蓮の視線の先で、キョーコは鋏を取りシャキシャキと封筒の上部を切る。口が開くと、そのまま鋏で内部をぐるりとなぞった。
 「カミソリなんかは仕込んでないわね…」
 更によく目でも確かめてから手を入れ、中身を引き出す。やはり楽譜だった。最後に歌詞も添えられている。
 「…」
 パラパラと五線紙をめくるキョーコの瞳が驚いたように見開かれる。
 「俺にも見せてくれる?」
 手を出した蓮に譜面を渡し、彼女は小さく息をついた。
 「意外、でした」



→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

妙法蓮華(4)

 「最上さん」
 何か言いかけた蓮に、社が申し訳なさそうに時計を叩く。
 「蓮、そろそろ…」
 俳優はマネージャーを見返して溜め息をつき、しかし仕方なく頷いた。
 「わかりました、行きます。
 「最上さん、ほんとに、何かあったらいつでも言ってくれていいから」
 「は、はい。ありがとうございます」
 キョーコに見送られ、蓮と社は退場。その間も震え続ける携帯に視線を落とし、少女は派手に顔を歪めた。
 「ああもうっ、まったくっ!」
 ぶちぃ。通話ボタンを指も折れよと押し込む。すると、
 『ボイトレをしてやるから出て来い』
 「はあ゛!?」
 通話が繋がるや予想通りの声にいきなり言われ、キョーコは低音で聞き返した。レイノは平然と続ける。
 『ユニット曲は俺とお前のダブルヴォーカルで演る』
 「私も歌うの!?って言うかボイトレなら養成所で受けてるわよ!」
 『歌手と役者じゃ内容が違う』
 冷静に返され、少女はうっと詰まった。
 「わ、わかったわよ、じゃあ私は私で歌のレッスン受けるから」
 『非効率的だ。第一、俺ならタダだぞ』
 痛いところを突かれて、しんみり沈黙した。生活費に服代に養成所の費用に…彼女の生活にはまだまだ余裕と呼べるほどの余裕がない。しかし…いくらなんでもこの危険な男に…
 苦渋の選択を迷うキョーコに、紫の瞳の魔犬は重ねて誘惑を差し出した。
 『ボイトレとユニット曲の練習を兼ねてやるから、素直に出て来たほうが結局俺との接触は少なくなるぞ?』
 うっ。
 『第一、お前もプロだろう。なら与えられた仕事にベストを尽くすことは当然、与えられた機会をうまく利用することも能力の内というものだ」
 ううっ。
 「そ、そんなもっともらしいこと言って、何企んでんのよ…」
 『別に、この件に関しては何も企んでいない。人の好意は素直に受けておけ』
 「人の好意は受けても、魔界人の好意は恐すぎるのよっ!!」
 『…ほおう…』
 レイノの口調が変わった。
 『京子は俺と組むのが恐いのか』
 「!?」
 その通りなのだが、改めて言われると負けず嫌いの血が騒ぐ。キョーコはぐっと唇を噛み、飛び出そうとする言葉を食い止めた。しかし相手は更に言う。
 『まあ、わかるがな。ユニットを組んだはいいが、俺たちに食われていいところがなくなるんだから、恐れもするだろう』
 「……っ…」
 『所詮そんなものか』
 ぶっちん。溜め息混じりの駄目押しに、ついに堤防は決壊した。キョーコは叫ぶ。
 「…わかったわよ!!!受けてやろうじゃないの、あんたのボイトレとやらを!その代わり、私を立派に歌わせて見せなさいよね!!できなかったじゃ済まさないから!!」
 ふ、とレイノが含み笑った。
 『望むところだ…』
 「…!」
 しまったと思ってももう遅い。キョーコは指定された日時を機械的にメモしながら、この経緯が蓮に知れた時の恐怖を思って涙した。




 「そう言えば、曲はどうするわけ?あんた達の曲の中から選ぶの?」
 「いや」
 ふてくされ気味のキョーコの問いに、レイノはピアノの前に腰を下ろしながらかぶりを振る。
 「いま用意している。まっさらの新曲だ」
 といくつか鍵盤を叩く様子に、タレントは腕組みを解いて向き直った。
 「アンタ、ピアノなんて弾けたの。…ってもしかして、新しい曲ってアンタが書くわけ…?」
 「ああ。曲も詞もな。いつもはうちのキーボードが曲を…」
 「イヤアアアア」
 突然叫び出すソプラノに遮られ、ビジュアル系バンドのヴォーカリストは言葉を切る。
 「…!?」
 「あっ、アンタみたいな変質者の書いた曲なんて、どんなんだかわかんないじゃないのっっ!!アンタまさか、私におかしな変態ソング歌わせようなんて」
 「思ってない」
 なにか苦虫を噛み潰したような顔で言われ、キョーコは珍しいと首を傾げた。
 「お前の声が一番響くところで、最高の曲を書いてやる。これでもプロだからな」
 レイノはひどく真剣な表情で言う。はなはだ説得力がないと思いながらも、気おされている自分を感じてキョーコは押し黙った。
 それへ差し出される右手。
 「この件に関してだけでいい、信じろ」
 「……」
 キョーコはたっぷり30秒迷い、
 さらに15秒かけてピアノに歩み寄り、
 辛抱強く待つ手に指先だけ当てた。




→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

妙法蓮華(3)

 「まず、絶対に二人きりにならないこと」
 「は、はい、それはもう!」
 念を押す蓮に、キョーコは頼まれたってそんな事態はごめんだとばかり勢い込んで頷く。
 「打ち合わせも、限度はあるかもしれないけど極力電話で済ませるようにして、直接会う機会はなるべく減らす。どうしても必要で会う時は、用件が済んだらすぐ俺に電話して。都合がつけば迎えに行ってあげるし、つかなくても電話で牽制できる」
 「そ、そんな。敦賀さんにそんなお手数…」
 「電話して」
 「…ハイ…」
 後輩女優に諄々と言い聞かせる俳優の後ろではマネージャーが困り顔。そんな小細工の前に、さっさと告白すればいいだろうに、と背後の空気が語っている。それでうまく行けば『俺の女に手を出すな』とか言えるわけだろ?…まあ、相手が相手だから、いかに敦賀蓮でも絶対的な計算ができないのは確かだけれど…もしふられたら、もう何もできることがなくなってしまうのも、確か、なのだけれど…
 はあ。社の溜め息をよそに、蓮の話はまだ続いている。
 「何か誘われるようなことがあったら、俺と先約があるって言えばいいから」
 「でも、そんないつも…もし誰かに聞かれて、変な噂が立ったりしたら申し訳ないですし」
 「構わないよそんなの」
 『ええっ!?』
 キョーコと社の声が重なった。社はなんだか複雑そうに、キョーコは…
 「だだだ駄目です絶対駄目!!スキャンダル知らずの敦賀さんに泥はつけられません!!」
 思いっきり的を外したところで叫び上げる。
 「泥ってそんな…」
 「敦賀さんっ」
 「え…あ、何かな…?」
 きっ、と視線を合わせて来る少女の瞳に吸い込まれそうになりながら、蓮は辛うじて平静な声を出した。キョーコはまなじりを決し、先輩俳優へと折り目正しく、
 しかしある意味言葉の暴力を叩きつける。
 「不肖の後輩へのお気遣い、まことにありがたく!最上キョーコ、骨身にしみるような感謝にうち震えております!!しかしながらっ、ただのいち後輩に対してそのようにご自分を犠牲になさるがごときご発言は如何なものかと!!」
 「いや、だから」
 防勢に回る蓮へ怒涛の押し切り。
 「大丈夫です、敦賀さんはいて下さるだけで効果絶大なんですから。あの魔界人はホントに敦賀さんのこと恐がってて、名前を出すだけでスゴスゴ引っ込んで行くんですよ!」
 「そ、そう。それはよかったけど…」
 やや割り切れないものも感じ蓮がひきつり笑うと、キョーコははっと何か思い出した顔をした。
 「そうでした!前にビーグルに会った時も、敦賀さんがいるところへ来いって言ったらあっさり引き上げて行って。すごく助かりました、ありがとうございました!」
 「…何の話?」
 「あっ、バレンタインチョコの受け渡しの時…
 「……あ」
 気まずい沈黙が落ちた。蓮の顔色が変わっている。
 「バレンタインチョコ…」
 どうやらそのキーワードに刺激されて蘇った記憶は一つではないらしく、俳優は低く低く呟いた。彼から発せられる暗い怒りの波動に、キョーコの頭頂からイキイキとブラックアンテナが顔を出す。
 「あ、あの…」
 おおはしゃぎのアンテナを押さえ、少女はおずおずと口を開いた。
 「敦賀さ…」
 だが相手の名を言いも果てず、いきなり輪郭を震わせブレまくり出した。
 ヴヴヴヴヴ。まるで怪しい宗教儀礼のように。
 「!?」
 さすがの蓮も後輩女優の奇っ怪な動きに引き気味に固まる。その驚愕の視線に構う余裕もなく、キョーコは慌ててポケットから携帯を取り出した。
 なんだ電話か、いきなり変なものに取り憑かれたとかかと思った、と胸を撫で下ろす俳優とそのマネージャーが見つめる中、ディスプレイを確認したまま彼女は動かない。
 「?」
 嫌な予感に蓮が携帯を握った手を捉えて引き寄せると、『非通知』の文字が表示されている。このタイミングでは、相手はまずもって…
         それぞれの思惑の中、電話は震え続ける。 
 

 
→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

妙法蓮華(2)

 「だから、何で私がアンタに電話しなきゃなんないわけ!!?直接連絡してもらっていいそうです、とかスタッフさんに言われて耳を疑ったわ!」
 「そういう問題じゃなくて!!そんなこと、許してもらわなくて結構だって言ってるのよ!
 「ああもう!大体、そもそも私とアンタたちが組まされるなんて何の陰謀!?さてはアンタ、何かしたのねっ。抽選係の人を操ってわざとこんな結果出させたとか!不正、不正だわ!!」
 「嘘おっしゃいこの魔界人、いいえアンタなんか地獄人よ!とっとと冥土に帰りなさい!!」
 怒鳴る度にパイプ椅子ががたがたぎちぎちと鳴る。その音と矢継ぎ早に叫ぶ自分の声に紛れ、キョーコはノックの音を聞き逃した。
 それに続く足音も。
 「とにかく、今後の連絡は他に人を挟んで…」
 「何の話?」
 突如耳許に吹き込まれた低めのテノールに、少女はフリーズドライ状態になった。チョップでもくれれば簡単に割れ砕けてしまいそうだ。
 「あ…あの…」
 ギ…ギ…ギ…軋む首が、そろそろと左背後を振り返る。するとそこには。
 もちろん、穏やかにしかし華やかに微笑む先輩俳優がいた。心中の苛立ちを隠す時に見せるそのスマイルの、何と言う輝かしさ。キョーコはちくちくと刺さる光の矢に崩れそうな気分になった。
 「つっ…敦賀さん…っ」
 「電話中に邪魔してごめんね?ずいぶん興奮してたから、何かあったのかと思って。不正とか魔界とか地獄とか…
 「相手、誰?よかったら俺が出てあげようか」
 「えっ!?」
 蓮の様子を見れば、相手の察しはつけていると明白に知れる。これがもし、向こうから用もなくかけて来た電話だったら有難いことこの上ない申し出なのにとキョーコは半泣きで思った。 
 固まったままの彼女の手から、するりと携帯が取り上げられる。しかしそれを耳に当てた蓮は、切れてると呟いてすぐに返して寄越した。
 「あ、すいません…」
 なんとなく息をつくキョーコに向けられる、ひときわ優しげな笑み。先輩俳優はそれは優雅にパイプ椅子を引いて腰を下ろした。
 「で?」



 「あの…今度、富士TV主催で8時間ソングスペシャルテレビって言うのがありまして」
 「ああ、『歌は人類を癒す』?」 
 「あ、はい」
 派手に宣伝しているしローリィの判断でLMEも参加しているから、蓮もどこかで知ったのだろう。キョーコは話が早いと頷いた。
 「事務所の壁を越えたチャリティ企画だよね。たしか抽選で所属歌手やタレントの組み合わせを決めて、それ専用のユニットを組ませるっていう」
 「それですそれです。私は歌手じゃありませんけど、タレント部に在籍してますので自動的に抽選にエントリということになっていたらしく…さっき、抽選が終わって組む相手が決まったと連絡がありましたところ」
 「よりによってビー・グールだった」
 「…ハイ…それで、自分たちでも打ち合わせをして欲しいと言われて電話するハメに」
 「ちょっと待って、最上さん。君、アイツにかける時、ちゃんと非通知にしたろうね?」
 「え……」
 「最上さん?」
 蓮が、ゆらありと立ち上がった。動けないキョーコはただでさえ身長差があるのに座ったまま見下ろされ、自分がどんどん縮んで行く気がする。実際、物理的にも縮こまっていた。
 長身のトップ俳優はしかしそんな彼女を見逃すつもりはないらしく、にこやかなきらびやかな笑顔を浮かべ、
 「も・が・み・さ・ん…?」
 一語一語刻むような低音で呼びかける。
 「あ…の……」
 少女がほろほろと呻く。
 「…し、してませんでした………」
 「ああ…」
 俳優が椅子に戻った。テーブルについた肘に顔を埋める蓮に、キョーコはオロオロとまつわりつく。
 「だ、大丈夫ですか敦賀さんっ。急にどうされました!?ご気分でも…」
 うん、違う意味で気分が悪いんだ。と言えず、蓮は力なくかぶりを振った。
 「いや、別に…そうじゃなくて、どうしてそう無防備なのかなと」
 「えっ、私ですか!?いえだって、そ、そんなこと思いつかなくて」
 「……だから。君は芸能人なんだよ?もっと身の回りのことに気をつけないと」
 「す、すいません」
 「俺に謝っても仕方ないよ。…はあ、これで君の携帯の番号があのストーカーの手に渡ってしまったわけか…」
 「はあ…でもなんか、とっくに知ってたんじゃないかって気もするんですけど。アイツなら、怪しい超能力でそれぐらい探り当てそうですし」
 「…」
 キョーコの発言に、蓮は一層頭を抱えた。メルヘン思考ならまだしもホラーはやめて欲しい、とその頬の微妙な引き攣れが語っている。
 「…まあ、とにかく」
 重い吐息をつき、彼は呟いた。
 「色々と対策が必要だね…」



→NEXT web拍手 by FC2

続きを読む

検索フォーム
作品一覧
サイト「花うてHP!」トップよりブログ内の作品のリストに飛べます。閲覧者の皆様のアクションに対して加算させて戴く「花うてポイント」の説明・管理もこちらよりどうぞ!

作品リスト(サイトトップ)

アクセス

・メールフォーム

・BBS

リンク

◆リンクページ


◆当ブログへのリンクについて

当ブログはスキビコンテンツをお持ちのサイト様に限りリンクフリーといたします。


ブログ名:花のうてな

管理人名:みなみ なみ

URL:http://hananoutena.blog14.

fc2.com/


 ↓各ジャンルごたまぜの本サイト。

↓スキビの同人誌作品をブログ記事として収載・販売しています。(2014年7月までで更新停止)

 ↓BUD BOY二次です。


  • 管理画面
  • RSSリンクの表示
    QRコード
    QR
    上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。