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もうだめなんて気のせいだって!(15)

 キョーコは手際よく朝食をセットするが、実は用意しているのが2人分ではないことに蓮は気付いた。
 調理台の端にバスケットが置かれ、彼女はそこにもちゃかちゃかと料理を詰め込んでいる。
 「それは、もしかして琴南さんの分?」
 尋ねれば、“痩身の魔女”は力強く頷く。
 「はい。無理矢理食べさせられてる場合と食べさせてもらってない場合を両方考慮して、繊維質の多いデトックスメニューを用意してみました!」
 もう執念と呼びたいような友情に、蓮は呆れた顔をした。
 「今朝、何時に起きたの」
 「3時間くらい前ですから…3時頃ですね」
 キョーコはさらりと言うが、それではあまり睡眠が摂れていないはずだ。
 蓮は口を開きかけ、思い直してまた閉じた。彼女はどの道眠れなかったのだろう。だから添い寝をしてあげると言ったのに。
 と、言うか。
 彼女が1階に降りて来て、しかも台所を使っているのに自分は気付かなかったのか、と彼は愕然と思う。
 腕に抱いて眠りたいほど愛しい者の気配は、それほど肌に馴染んでいるのかと複雑な気分になった。
 なっていたら、キョーコがぽつりと言う。
 「でも私、蓮さんがいて下さるって思ってたせいでしょうか、どこか最後のところで安心してたって言うか…少しでも眠れたのは、蓮さんのお蔭です。ありがとうございます…
 「あの?」
 顔を覆って突っ伏す男に、彼女は怪訝そうに首を傾げた。
 「…うん。いや、そんな場合じゃないんだ。もう少しの辛抱だから」
 「蓮さん?何ぶつぶつ言ってるんですか。テーブルに肘をつくのは行儀が悪いですよ」
 そこか。蓮は脱力の中に衝動を逃がし、おざなりにハイハイと呟いた。



 食後のコーヒーも終わって、ぽかりと所在無くなった一瞬。かろかろと玄関ベルの鳴る音がした。
 「お出ましかな。いいタイミングだね」
 「ええ…」
 バスケットを手に立ち上がりながら、キョーコは何やら妙な顔をしている。
 「どうした?」
 「いえ…誘拐犯さんの仲間だけが、ちゃんとベル鳴らして訪ねて来るのねって思って」
 ダイニングを出ながらの言葉に、蓮は苦笑した。



 キョーコは目隠しと後ろ手に縄を受け、それでもバスケットを離さなかった。
 地味な二頭立ての馬車に乗せられ、小一時間も揺られたろうか。やたらに角を曲がったし回り道もしているだろう。すっかり位置感覚を失った頃、さほど快適でもない乗り物はガタンと揺れて停止した。
 扉が開かれる音に続いて、目隠し越しにも馬車の中に射し込む光を感じる。
 御者に助け下ろされたキョーコは思わず首を巡らせたが、無論目隠しされていれば見えるものはない。
 ただ、鼻先に潮の香りを感じた。
 (海…?港かしら。蓮さん、ついて来てくれてるのよね?)
 腕を引かれてそろそろと歩き始めながら、守ると言ってくれた人の姿を思い起こす。
 本当は、当てにしすぎてはいけないと思う。
 本人は万全などと言っていたが、強い毒を受けた翌日だし、浅いとは言え脇腹に裂傷もある。無理をさせていいはずがない。
 なのにキョーコは、蓮がいれば大丈夫だと思う気持ちが捨てられないのだ。
 (自分から彼のところを飛び出したくせに、勝手だわ私…だけど)
 自分ひとりのことでなく、奏江の命までかかっている状況で、彼の助けはやはり必要だと思う。二人とも守ると言った言葉を信じたいと思う。
 (モー子さん…蓮さん)
 交互に浮かぶ顔に思いを乱すうち、前方で空気が動いた。扉が開いた時のように。
 背中をたすと押され、たたらを踏みかけながら前に進む。少し空気が冷えていて、加えて目隠し越しに感じていた陽光がすいと足元に沈んで消えた。
 背後で手縄が切られ、御者の気配がさっと離れる。扉を開け閉てする物音。
 解放された手で目隠しを毟り取り、キョーコは忙しく四囲を見回した。
 「モー子さん!」
 暗い。
 靴の下は踏み固められた土の感触。手を伸ばした先で触れた板は、木箱が積まれているようだ。壁を作るそれを辿って、奥へと進みはじめる。片手に下げたバスケットの持ち手をしっかり握り締めて。
 数歩進むと、左側からぼんやりとした光が洩れて来ているのに気付いた。
 木箱の切れ目に沿ってそちらへ曲がると、更に左奥にロウソクが1本灯され、
 その傍らに、くたりと横たわる黒髪の美女。
 「モー子さん!!」
 青くなって駆け寄ろうとする調薬師の耳に、高飛車な女の声が届いた。
 「薬で眠ってもらってるだけよ、心配ないわ」




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もうだめなんて気のせいだって!(14)

 「手紙には、朝ってだけで時刻の指定がなかったね」
 「そうですね…明日は早起きしておかないと。
 「で、貴方は何をしてるんですか」
 自分を抱え込んで髪にキスしまくる男を、キョーコは軽く睨み上げた。
 「何って、さっきの話の続きを行動でしようと思って」
 あっさり言われて巻きついた手を振り払う。
 「なっ何言ってるんですか!私がそんな気分だと」
 「思わないから慰めてるんだよ。君の答えは要求してないだろう?」
 「屁理屈にもなってません~!!」
 だあ、と蓮を撥ね退け、彼女はさっと身を引いた。
 「もう戸締りと寝支度しますからっ。狭くて申し訳ないですけど、蓮さんはそのソファ使って下さい」
 「え、君のベッドに入れてくれないの?」
 不満そうに尋ねられて真っ赤になる。
 「だっだから、そんな気分じゃないって」
 「何もしないよ。ただキスして、抱きしめるだけ。君が落ち着くように…」
 キョーコの動きが止まった。頬を染め、記憶を辿るように立ち尽くす。
 「ね?」
 伸ばされた手をしかし、彼女はかぶりを振って拒んだ。
 「今は…ダメです。けじめをつけましょう」
 「相変わらず生真面目だね、君は。そういうところにも弱いんだけど…」
 蓮が苦笑する。瞳はキョーコから外さずに。
 灼けつくような声で、彼は言った。
 「今回の件が終わったら、取り戻すよ」
 キョーコの肩が跳ねた。何を、とは言われなかった。おそらく、あまりに明白だから。
 彼女は頷くでも拒むでもなく、ただそろりと息をついた。



 「おはようございます。体はどうですか?気分が悪いようなことは?」
 尋ねるキョーコに、蓮は朝の光に負けない笑顔を返した。
 「おはようキョーコ、いい朝だね。君の治療のお蔭で俺は万全だよ」
 調薬師がよかったと微笑む。
 「蓮さんの体力の賜物ですよ。じゃ、朝ごはんの支度しましたからどうぞ」
 「ああ、ありがとう。嬉しいな…君と差し向かいの朝食は久しぶりだ」
 「も、もう、またそんなこと言って。と言うかもしかして、朝食自体久しぶりに食べるとか言うんじゃ」
 「ん?あー…」
 「蓮さん!」
 あさってを見上げる男の背中を、キョーコはどすどす押してダイニングに向かわせる。
 「もう。もうっ。蓮さんはっ。ほんとにもうっ」
 「琴南さんみたいだよ、キョーコ」
 「本望ですっ。もう。今後は絶対改めてもらいますからね!ごはんはちゃんと食べないといけないんですっ」
 男が笑う。
 「わかった、わかったよ。ありがとう」
 「え?何でお礼なんて」
 キョーコの怒涛の突っ張りが止まったスキに、彼はくるりと身を返した。向き合った女の腰を片手でかっさらう。
 「今の、君が改めさせてくれるって意味だろう?」
 にこにこ尋ねるので、キョーコは口をへの字に曲げた。
 「蓮さんの態度次第ですっ」
 「難物だねえ、キョーコさんは。そのかわり、味わうとすごく美味しいけど」
 わざとらしい溜め息を相手の鼻に吐き落とし、蓮は逆にキョーコをエスコートしてダイニングに入った。
 テーブルの上には2人分の食器がセットされ、かまどには鍋やフライパン。火は既に埋めてある。
 「そちらにどうぞ」
 片方の椅子を指し、キョーコは蓮の手を逃れてかまどに向かった。
 青年はなつかしむような、焦がれるような眼つきで華奢な背中を見つめながら言われた通り席に着く。
 「…うん」
 小さく小さく、彼は頷いた。
 守りきり、取り戻して見せる。何があっても。
 「何か言いました?」
 フライパンを手に振り返るキョーコに、彼はやわらかく微笑んだ。
 「愛してるよって言ったんだ」






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もうだめなんて気のせいだって!(13)

 「いや、それどころじゃなくてだな!キョーコちゃん、これ」
 社が突き出した紙片を、蓮の腕からやっと脱出した調薬師がおっかなびっくり受け取る。
 「何、でしょう?」
 開くと数行ばかりの文字列。それを一読するや、彼女は顔色を変えた。
 「モー子さんっ…!!」
 「キョーコ?」
 青くなる女の肩を抱き、蓮はそっと紙片を取り上げる。
 「一体何が書かれて…」
 『“痩身の魔女”殿
 琴南奏江の身柄は当方にて預かった、彼女を案ずるならば指定の場所に来られたし。
 なお、夜更かしは美容の大敵につき今夜はこれまで。明朝使いの馬車を差し向けるので、お一人にて乗り込まれるよう。
 賢慮を願い    E』
 「これは、誰が?」
 蓮が手紙を握りつぶし、社に向き直った。
 「何だか派手な男の三人組が…俺が気付いた時には窓辺にこの手紙を置いて馬車に乗り込むところで、そのまま逃しちゃったんだけど」
 「その馬車は?」
 「よそで拾った辻馬車らしい。御者がちらっと見えたけど、この辺では見かけない顔だった」
 「そうですか…」
 「れ、蓮さん!どうしよう、モー子さんがっ」
 震えていたキョーコが元夫につかみかかる。
 「キョーコ、落ち着いて」
 「でも!ああどうしよう、今頃土に埋められて、無理矢理食べ物を口に詰め込まれてたらっ」
 「ガチョウじゃないんだから…」
 「縛り付けられて、口に突っ込まれた漏斗にコーラとかべたべたに甘い無果汁ジュースとか流し込まれてたら!」
 それは苦しそうだが、一体どういう発想か。
 「いやキョーコ、だから」
 「モー子さんは年中ダイエットダイエットって、私の料理もあんまり食べてくれないのにっ。変な食べ物で無駄にカロリー摂らされてたら…私のせいでそんなことになったら、もう許してくれないかもしれない!!」
 悲痛な、しかし傍目には楽天的な発言に、男2人はひっくり返りそうでも逆に頼もしいようでもある複雑な気分になった。
 「ええとね、キョーコ」
 蓮が苦笑する。
 「大丈夫だよ、一晩のカロリーくらいすぐ燃焼するから。逆に一晩食べなくたって、大して辛いわけでもないし」
 「そんなの蓮さんだけです!」
 あっさり斬り捨てられ、困った顔で宥めにかかった。
 「とにかく、朝には居所がわかるんだ。少し落ち着こう。その頃には俺も回復してる、こっそり付き添うから。ね」
 「でも、1人で来いって」
 「見つかるようなヘマはしないよ」
 きっぱり言い切られ、キョーコはうろうろ瞳をさまよわせた挙句に小さく頷く。
 「お願い、します…私のことはいいですから、モー子さんを助けてください」
 「2人とも守るよ」
 「蓮さん…」
 頼もしげに見上げられ、男は妻の腰を抱き寄せようとした。しかしキョーコは故意か偶然か見事にすかして社に向き直る。
 「でも、どうしてこの手紙が社さんのところに?」
 「えっ」
 居辛そうに頬を掻きながら辞去のタイミングを窺っていた薬屋が、少し慌てる様子をした。
 「そ、それは。俺が色々仲介…そう、キョーコちゃんの薬を仲介販売してるから、繋がりがあるってことでじゃないかな。ほら、この家は路地の奥で馬車も入れないし、男三人で乗り込んで来ちゃ目立つだろう?」
 「なるほど、それもそうですね」
 あっさり納得する調薬師に、男どもは胸を撫で下ろした。
 「社さん、知らせに駆けつけてくれてありがとうございました」
 蓮が薬屋に軽く頭を下げる。用は済んだから早く帰れと言わんばかりだ。いや言っているに違いない。
 「あ、ああ。うん。いや。ええと…じゃ俺は帰るけど。もし何か力になれそうなことがあったら言ってね、キョーコちゃん」
 社はドアに向かいかけ、心配そうに付け加えた。
 「はい、ありがとうございます」
 キョーコは、気をつけてと言って去って行く背中をきちんと一礼しながら見送る。去り際に蓮と交わされた一瞬の視線には、彼女は気付かなかった。




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もうだめなんて気のせいだって!(12)

 「どうして、わからないんですかっ…!」
 ぼろ。
 キョーコの目から大粒の涙が零れ、蓮はぎょっと立ち竦んだ。
 「キョー、コ」
 「貴方が私を思って下さるのと同じ気持ちで、貴方が手にかけた人を大切に思ってる人だっていたかもしれないのに。貴方はそういう気持ちを踏みにじって、平気な顔をして…」
 「ああ…でも、俺はちゃんと話を受ける前に下調べはするよ?生きてたら害になるような人間かどうか」
 「そういう問題じゃありません!」
 女調薬師は強く遮り、平手で空気を切った。黙り込んだ蓮が長く息を吐く。
 「君は、俺が怖い?」
 「怖いですっ」
 高速で叩き返された拒絶の言葉。男はかすかに上体を揺らがせた。
 「…俺は、君の方が」
 「貴方を好きになって、あの男の子だって知ってもっと大好きになって、貴方にも、そう言ってもらって。毎日毎日、もうだめなんじゃないか、これ以上好きになんかなれっこないって思うのに、まだ好きになって」
 「え」
 「なのに貴方は、人殺しなんて請け負って、どんどん手を血に染めていく。恨みを集めて行く。“仕事”から戻った貴方の瞳の暗さを見て、私がどんなに絶望したかわかりますか!?貴方がそんな風に闇に沈んで行く、魂を蝕まれて行く姿を、いつか返り討ちに遭うんじゃないか、役人に捕まるんじゃないかってビクビクする日々を恐れちゃ、いけませんか!!?」
 「キョーコ…」
 蓮が呻いた。
 「愛してるって聞こえる」
 「そう言ってます!」
 返事はまたしても高速で返った。今度は肯定の形で。
 キョーコは必死の形相ではったと男を睨み上げている。その頬に、そろそろと大きな手が泳ぎ寄った。
 「キョーコ…」
 蓮は彼の至上の名を呟く。そっと引き寄せても、抱きしめてもキョーコは抗わなかった。
 彼のシャツを握り締める小さな拳を取り、震えるその指に唇を当てる。
 「ごめん」
 小さく呟いた。
 「心配、させてたんだね。ずっと」
 「ふ」
 キョーコの顔がくしゃりと歪んだ。
 「れんっ、さんはっ…わたしのこと、みてるようで、みてないっですっ」
 「うっ」
 半泣きの声が突き刺さり、男は自分の胸を押さえる。
 「いつも、心配してるのにっ、笑うんだもの。大丈夫って。そればっかり。ごはんだって、ちゃんと食べないしっ」
 「あ、あ、うん…ごめん。でも、君の作ったものは食べてたよ?」
 「ちゃんと食べないしっ」
 「ハイ、ごめんなさい」
 叱られた男は女の肩の上に頭を垂れた。
 「…うん」
 ぽつんと呟く。
 「もうやめる」
 「え?」
 「殺しを請け負うのは、もうやめる」
 顔を上げ、蓮ははっきりと言い切った。キョーコの方が狼狽する。
 「やめるって、それはいいことだと思いますけど、でもあの、だっ大丈夫なんですか。そ、組織の制裁とか」
 わうわう言うので、男がちょっと笑う。
 「キョーコは想像力が逞しいな。だから調薬の腕もいいんだろうけど…
 「あのね、俺はどこの組織にも属したりしてないよ。一匹狼って言うのかな?だから、仲介者に今後は請けないって断ればそれで終わり」
 「本当、ですか」
 キョーコは疑うように縋るように蓮に詰め寄る。
 「うん」
 細い体を抱え込んだ腕に力をこめ、蓮はまっすぐに瞳を合わせた。
 「それで今までしたことが帳消しになるわけじゃないってことは、わかってる。だけど、もうしないから。君をこんな風に泣かせるような真似は」
 涙のあとの残る頬に口付ける。
 「戻って来て、くれないか…」
 「蓮さん…私」
 「大変だ!!!」
 ずばたん!
 ドアが乱暴にぶち開けられた。血相を変えて駆け込んで来たのは薬屋の青年。
 「蓮も一緒か、ちょうどいい。大変なんだ…
 「って…あれ?あの…」
 ぴったり抱き合っている2人に気付き、彼はきょときょとと視線を泳がせた。蓮が低く呻く。
 「恨みますよ、社さん…」




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もうだめなんて気のせいだって!(11)

 「あのね、貴方は見た目よりも体重が重いって気にしてるけど、それは筋肉質だからで、落とす必要なんてどこにもないのよ?むしろ貴方のボディラインって流麗ですごくかっこいいわ!」
 「え、そ、う?」
 諄々と説く“痩身の魔女”の言葉に、げっそり疲弊した顔を伏せていた由利奈が顔を上げた。その装飾と拘束を取り去りながら、キョーコが頷く。
 「羨ましいくらい」
 「あ、あらやだそんな。
 「いえ、でも…そうだとしても、理屈じゃないでしょ、人に体重を言えないっていう気持ちは」
 「あまり堂々と言う女性も少ないと思うけど…でもそうね、どうしてもって言うのなら、私にも少しくらいお手伝いできるかもしれないわ」
 「え…ほんと?」
 「ええ」
 「…!」
 頷くキョーコを、退役軍人は女神を仰ぐように見つめた。
 (落ちたわね)
 その光景を眺め、奏江は思案から浮上した。自白剤云々に縮み上がった由利奈からついにキョーコを排除しようとする首謀者の名を引き出し、今後の対策を練っていたところだ。
 「大したもんね、あの子は。さっき脅した相手をもう味方にしちゃった」
 ごく小さく呟くと、横合いから声とも呼べないほどの声が聞こえる。
 「俺の奥様の一番の得意技だよ。彼女は誠実だからね」
 奏江はそれを綺麗に無視したが、表情に反発の色はない。
 「ま、とにかく。相手の名前も証人も出たわけだから。反撃に出ないとね」
 縛めを解かれて息をつく元軍曹を見ながら、彼女はすっくと立ち上がった。
 「貴方にも協力してもらうわよ。いいわね!」
 びっしと指差せば、
 「ええ、わかってるわ。私、ちゃんと償うから。間違いだったのよ、ダイエッターの希望の星を害しようだなんて…」
 由利奈ははにかむ調薬師の手を握る。
 (チョロいわこの人…)
 奏江の心中は知らず、彼女は真剣な眼差しをひたすらキョーコに向けた。
 「みんな落ち着いて、私も罪を償ったら…また貴方を訪ねていい?」
 「勿論よ!待ってるわ」
 快諾を得て、女軍曹は先ほどまでとは別人のように穏やかな顔で奏江に従って去って行った。



 「ほんとうに、大したものだね君は」
 のっそりと身を起こした黒い影に、茶支度を片付けていたキョーコがびっくり飛び上がった。
 「蓮さん!もう気がついたんですか!?」
 「うん、少し前にね。だるくてそのまま動かなかったけど、君たちの話も最後の方は聞こえてた」
 しれっと言い、蓮はソファに座りなおす。少しふらつくのを、キョーコが急いで支えた。
 「だ、大丈夫ですか」
 「ああ、ありがとうキョーコ。隣に座って、少し寄りかからせてくれるかな。あまり重くないようにするから」
 「あ、ええ…でも、毒は抜いたって言っても有効成分だけで、肝臓にはまだ残ってるんですから無理しちゃ駄目ですよ?」
 「奥様のお言いつけ通りに」
 ふと笑う蓮にキョーコは困った顔をしたが、何も言わずにそっと男の腹の傷に触れた。すこし奥歯を噛む様子を見て表情を沈ませる。
 「無茶するんだから…私なんか庇って」
 「君のためなら100回死んだって構わないよ」
 穏やかに言われて、調薬師はさっとかぶりを振った。
 「そんなの、私のためなんかじゃありません…っ!」
 今度は珍しく蓮が困り顔になる。
 「ああ…そうだね、ただの自己満足だ。男の勝手、かな。
 「…俺のこと、心配した?」
 「すごくしましたっ」
 「ごめんね」
 あくまでも優しく謝って顔を覗き込んで来る蓮を、キョーコは涙に潤んだ瞳で見上げた。
 「どうして…
 「どうして、私なんですか」
 「それは俺も知りたい」
 男が小さく苦笑する。
 「壊してしまおうと思ったんだ。君に惹かれ始めてることに気付いた時。大切なものなんていらない、持ちたくないって、君から離れようとした。でもできなくて、いっそこの手で…」
 長い指先が、女の白い喉を撫でて落ち、ゆるゆると離れて行く。
 「それも、しませんでしたね」
 まっすぐに、たじろがず見つめる大きな瞳にもうひとつ苦笑を映し、蓮は引き戻した手をやわらかな頬に伸ばした。
 「そうだね、結局。
 「そして、どこまでも鈍い君をやっとの思いで手に入れて…手に入れたと思ったら今度は君が去って。俺はますます君に執着する有様だ」
 「蓮さん…」
 細い声が震えた。
 「私が大切ですか?なくしたくない?」
 答えは明瞭だった。
 「命がけでそう思ってる。たぶんもうずっと昔…子供の頃、あの河原で出会った時から」
 キョーコが大きくかぶりを振った。
 「それなら…!!」




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