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もうだめなんて気のせいだって!(10)

 「あら、お目覚め?」
 奏江は揺り椅子へと冷ややかな視線を投げつけた。
 「関由利奈軍曹」
 追加された名詞に、キョーコが驚いた顔をした。
 「あの人、軍人さんなの!?」
 「もと、ね。うちのセキ式ブートキャンプのトレーナーよ」
 「そうなんだ…でも蓮さんあっさり…あ、いえ」
 ぱっと口を塞ぐキョーコ、その向こうの蓮を、女は憎々しげに睨みつけた。ちりん。
 「まったく…気配は殺してたしタイミングも完璧だったはずなのに、何なのよその男。素人じゃないわね」
 「え」
 もともと白い顔から一層血の気を引かせるキョーコに柳眉をひそめ、奏江はひとつかぶりを振った。
 「この子のためなら何だってしてみせる男なのよ。そんなことはいいから、さっさと白状しなさい。貴方の依頼主の名前をね」
 「依頼主?」
 由利奈がフンと鼻を鳴らした。またしてもちりと鈴が鳴る。
 「ちょっと…これどうにかしてくれない!?緊迫感がだいなしだわ」
 「ええ、可愛いのに」
 抗議の声も、それに顔を曇らせるキョーコもうっちゃり、幹部ダイエッターは冷徹な声を出した。
 「どうでもいいことばかり言わないでくれない?依頼主じゃないって言うなら、スポンサーでも同志でもいいわ、とにかくあなたを唆した人間がいるでしょ。そいつの名前を言いなさい」
 「何の話かわからないわね。私は私の意思で、人を堕落させる魔女を葬り去ろうとしただけだもの。その女」
 と元軍人は顎でキョーコを指す。
 「夢のダイエット薬なんて言って派手に売り上げてるけど、おかしなクスリでも混ぜてるんじゃないの?大体、そんなよく効く薬なんて、体に負担もかかるに決まってるわ」
 「え、夢のって…それは知らないけど、私の薬は漢方に近くて、体への負担は極力避けてるのよ。効果だって、実はそんなに急じゃないんだし。むしろデトックスと言うか」
 「講釈はどうでもいいのよ!巷じゃ一週間で-8kgとか言ってるけど、私にはぜんぜん効かなかったし!!」
 ちりちりちりちり。
 「試したのね…」
 「うるさいッ」
 トレーナーはいきり立って叫んだ。ちりちりしゃらしゃらかろん。
 「ズルしようとした私がバカだったのよ。惑わされて自分のスタイルを見失うところだったわ。だから、もう私みたいな人間をガラの会に発生させちゃいけないのよ!!」
 「私はキョーコの薬なんてアテにしてないわよ!!」
 奏江が叫び返す。しかし由利奈も引かない。
 「でも現実に、そんなに仲がいいんじゃない。京子は貴方のためなら自分から進んで役に立とうとするでしょう!?」
 「それは、そうかも」
 「ちょっとキョーコ!?あんたまで何言ってんのよ、もー!」
 「だって確かに、あの薬も初めはモー子さんのためにと思って作ったんだもの。モー子さんはいつもダイエットしてて、私の料理をあまり食べてくれないのが淋しくて」
  キョーコはしみじみと虜囚に向き直った。
 「でもモー子さんはとっても自分に厳しくて、薬なんかに頼らないって断られちゃって。私、余計なことするなって叱られたの。
 「それでも…モー子さんはね、世の中にはダイエットしたくても手間や時間をかけられない人たちもいるから、その薬はそういう人たちの役に立てなさいって言ってくれたの。それで薬屋さんに卸すことにしたら妙に評判になって私もびっくりしてるんだけど…」
 “痩身の魔女”はすこし首を傾げ、ちらと親友を見た。
 「とにかくね、モー子さんはそういう人なの。私のことなんて、当てにしてくれないの」
 「ちょっと、そういう言い方しないでよ。私がアンタを疎外してるみたいじゃないの!」
 「だって」
 「ああ全く、あんたたちのラブラブっぷりはわかったから!!」
 元軍曹の鞭に似た声が飛び、二人はぴたりと口を噤んだ。同時に振り返り、
 「やっぱり?隠してても表れちゃうのねえ」
 「隠してないでしょアンタは!!」
 違うことを言った。
 「アンタも!!」
 奏江は同僚を、火を噴きそうな眼つきで睨む。
 「余計なことばっかりほざいてないで、とっとと私の質問に答えなさいよ!!」
 「さっき答えたじゃないの」
 「嘘なんか無効よ。ああもうっ、キョーコ、自白剤とかそういうものないの!?」
 「モ、モー子さん」
 キョーコが大きな目を更に瞠った。
 「あ…いえ、そうね、悪かったわ。不適切な発げ」
 「初めて私を頼ってくれるのね!!」
 「はああ!!?」
 ひっくり返りそうになる友の姿を見ていながら見ず、キョーコは両手を握り合わせて前かがみになった。
 「ああ、でもごめんなさいっ…そういう薬の作り置きはないの。今すぐ作れるものじゃないし…」
 「いえ、だから…ん?今すぐじゃなきゃ作れるわけ?」
 「ええ、一応。あまり得意じゃないから、効果と被験者の正気が反比例しちゃうかもしれないんだけど」
 キョーコが物騒なことをつるりと言うと、由利奈の顔から音を立てて血の気が引いた。軍隊上がりにはリアル過ぎる話だったようだ。ち、り…と鈴が転がる。
 奏江は友と刺客の顔を見比べ。美しい、整った笑顔を浮かべた。
 「なるほどね」





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もうだめなんて気のせいだって!(9)

 「こんなものかしらね」
 ぱん、と手をはたいて奏江が立ち上がる。
 「ちょっと殺風景じゃない?これつけてみようかな…」
 キョーコが持ち出して来たものを見て呆れた顔をする。
 「殺風景とか……
 「私、時々本っ気でアンタがわからないわ」
 「ええ~?ひどいモー子さん、私はモー子さんのことすっごく大好きで、全部わかりたいと思ってるのに」
 「…!」
 ばっ、とソファを振り返る頭につれて、しなやかに流れる黒髪。いきなり荒い動作をする友の姿に、キョーコは戸惑いと感嘆を同時に浮かべて見入る。
 「ああ、モー子さんてば何やっててもキレイ…でもどうしたの、急に」
 「一瞬、殺気が…いえ、何でもないわ。じゃあまあ、これはこれでいいとして」
 ガラの会幹部は口調に疲れを滲ませながら自分の席に戻り、その隣に作業を終えたキョーコが座る。
 「ちょうどお茶もよく出た頃よ」
 にっこり笑うキョーコよりも、奏江はその向こうを見た。
 「よく眠ってるわね?」
 二人の座るソファの向こう、直角に置かれたもう一つのソファには大きな黒いイキモノが横たわっている。皮肉げに言う親友に、調薬師がそっと微笑んだ。
 「ホキリソウの毒素は効果適温が高めだから、体温を下げるために眠り薬も飲ませてあるの。あまり強いものじゃないけど」
 「ふうん…タフな男よね」
 「え?うん、そうね。死ななくてよかった…」
 ほのかに微笑み、キョーコは蓮の髪を撫でた。
 「で!」
 奏江が友の手を取って体ごと自分に向かせる。
 「事情を説明するから、アンタはちゃんと聞いて、用心するって約束しなさい。一人で出歩いたり、家にいても油断しちゃダメよ」
 「う、うん…」
 迫力に圧され、キョーコは引き攣りながら肯った。
 「わかったわモー子さん、約束する。心配してくれてありがとう」
 「え。な、何言ってんのよバカね。私はただ責任上…それにアンタにもしもの事でもあれば、そこのソイツに祟られそうだし、寝覚めも悪いし…」
 「うんうん」
 蓮を指してあばれる友にニコニコ頷く仔犬のような信頼の瞳に、奏江は語尾を弱めたまま奥歯を噛んだ。白い繊手をさっと振る。
 「とにかく!話を進めるわよ。
 「ええとね、まず…まだ本決まりじゃないから言ってなかったんだけど」
 眉間に手を当てると、奏江は頭痛を堪えるような顔になった。
 「ガラの会の次期会長に選ばれたのよ、私。一人で好きにやる方が向いてるから、断ろうとしたんだけど頼むからって言われて」
 「ああ!だってモー子さん綺麗なんだもの。皆憧れて頑張ろうって思うわよ。今の会長さんも美人だものね~」
 キョーコがうっとり両手を握り合わせる。
 「もー、話が進まないじゃない。いちいち茶々入れるのやめてくれない!?」
 「モー子さん赤くなってる、可愛い~」
 「ぶつわよ」
 厳と睨まれ、キョーコは自分の口を塞いだ。その奥でモゴモゴ呟く。
 「ホントノコトナノニ…」
 「ところがね!馬鹿な女がいて、どっかの大金持ちのお嬢様なんだけど、自分も会長職狙ってたのに逃しそうになったものだから妙なこと言い出したのよ!!」
 「妙なこと?」
 力強く言い切った滑舌と肺活量に内心で感心しながら、調薬師が首を傾げた。
 「琴南奏江は“痩身の魔女”と仲が良い、琴南の会長就任自体に異論はないが、京子の存在によって会内のパワーバランスが崩れる恐れがある。ガラの会の安寧のために、ダイエット会に影響の大きくなりすぎた京子を排除すべきである。とかってね。舐めてんじゃないわってのよ。自分がそうしようと思うなら、一人でだってのし上がって見せ…
 「…アンタ、何キラキラしてんのよ!?」
 「だって!人の目にも私とモー子さんは仲が良いって見えるんだって思ったら嬉しくて!!」
 「ああもうっ」
 すこすこ投げつけられるダイスキ光線を腕でブロックし、奏江は怒りの声を上げた。
 「アンタはっ!だから、少しは危機感を持ちなさいって言ってるでしょうがさっきからずっと!!理由がいくら馬鹿馬鹿しくたって、現実に命狙われてるのよ!?
 「しかも、証拠を揃えて勧告するか、最悪役人に通報しようと思って探ってたら」
 と奏江は、揺り椅子に縛り付けられた上に両手両足にいくつもリボンつきの鈴を吊り下げられた女襲撃者を指し、激昂も露わに叫びつける。
 「あの人のことつかんだとたんに逃げ込まれたのよ、笑っちゃうくらい大金持ちのお父様の家にね!!」
 「で、でもそんな」
 「ちなみにそのお父様、ガラの会の最大出資者でもあるわ」
 「えーっと…」
 「で、ともかくアンタが心配で様子を見に…いえその、だからね、危機はまだ去ってないの。下手したら、向こうは意地になっちゃってるかもしれない。アンタがぷよの会に誘われたことまで知ってたわよ」
 「あ、うん。でもお誘いは断ったのよ?だってあそこは、モー子さんの所と仲が悪いし」
 一生懸命言う様子に、奏江はとうとう脱力した。
 「もうホント、あんたって」
 「そんな風だから、だろう?」
 いきなり奏江でもキョーコでもない女の声が割り込んだ。ちりん、という鈴の音と。





  
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もうだめなんて気のせいだって!(8)

 「でもまず、話より先にこれ何とかしないと」
 奏江に促され、キョーコは慌てて蓮の牽引を再開した。
 「モー子さんったら、蓮さんのことこれだなんて…」
 困った口調で言いかけ、友の美しい顔に般若の相が浮かぶのを見て縮み上がる。
 「モ、モー子さん!?」
 「あんたねえっ、あれだけこの男に悩まされてて何をまだ庇ってんのよ!!」
 奏江が怒りのあまりか引き潮にも似た力強さで引っ張るので、蓮の体はあっと言う間にソファの下まで運ばれた。キョーコが手を叩く。
 「モー子さんすごい、力持ち~」
 「ボディシェイプのためにウェイトトレーニングもやってますからねっ」
 フンと鼻息を噴き、ダイエット道場の幹部は厳しく命じた。
 「ほら、頭の方持って。一気に持ち上げるわよ」
 「わかったわ、せーの…
 「よいしょ!!」
 ばふ、とソファの座面が空気を吐き出す。蓮の体は女一人の家の小さなソファに収ま…りきらず、大幅に足がはみ出してはいるがともかく横たえられた。キョーコは戸棚から毛布を出して来る。
 「やっぱり蓮さんには狭すぎるわねえ…でも屋根裏部屋のベッドまでなんて、とても運べないし」
 「屋根裏はあんたの寝室じゃないの。そんなとこ寝かせたら駄目に決まってるでしょ」
 「え、でも私を庇って毒を受けちゃったのに…」
 「そ・れ・で・も!大体あんた、結婚したばっかりですぐ戻って来たと思えば理由も言わずに毎日暗い顔してたクセに、なんで未だにこの男が出入りするの許してるのよ。
 「まあ、今回ばかりはそれで助かったけど…」
 奏江は渋面のまま、腕を組み片足の爪先で床をたしたし叩いた。
 「そりゃ私は、何があったか知らないわよ。話してもらえないんだから。でもね、それならあんたにあんな顔させる男に振り撒く愛想の持ち合わせがあるかって聞かれれば答えはノーよ」
 「モー子さん…っ」
 かすかに血の色を浮かべる頬を隠すように手を上げ、彼女は大きく肩を揺らして息をついた。
 「肉体労働したらのど渇いたわ、お茶でも貰える?」
 「あ、うん!ごめんね気が利かなくて。用意して来るから、そしたらさっきのお話聞かせて」
 「ええ、わかってるわ」
 「じゃ、ちょっと待っててね。蓮さんのお薬も出しておかないと…」
 奏江が頷くと、キョーコはパタパタ軽い足音を立てて奥へ引っ込む。彼女がキッチンへ入る頃合になって、ガラの会の幹部は蓮の寝かされているソファに近い椅子に腰を下ろした。
 「…で?狸さんはいつまで寝とぼけるつもり?」
 低く言う。
 蓮の体が小さく震え、苦笑と共に眼が開いた。
 「私が引っ張るタイミングに合わせて反動つけて下さってどうも」
 「どういたしまして」
 皮肉な声に皮肉を返し、蓮は視線を椅子の上の女へと投げ上げた。そこから質問が降って来る。
 「毒は?」
 「効きにくい体質でね。とは言え、キョーコの薬がなかったら危険だったのは確かだけど」
 「そうですか。じゃ、動けないのは本当?」
 「今のところは。明日には回復してると思うよ。君も言ってたけど、キョーコがいれば俺は簡単に死んだりしない」
 最初っから意識があったのね、と奏江が嘆息する。蓮はほのかに微笑み、キッチンの方角に耳を澄ますように目を伏せてから言った。 
 「君は敏いね。その上聡い。俺が気がついてることをキョーコに黙ってたのはどうして?」
 「キョーコの家に入り込もうって企んだってことくらいわかります。それが純粋にあの子を守るために、ってことなら、話くらいは聞いてもいいかと思って」
 「それはお気遣いありがとう。そうだね…守るよ、全力で」
 蓮の瞳に力が点った。
 「と君が言うってことは、まだ終わってないんだね」
 玄関先に転がされたままの女襲撃者を見遣り、彼は低く呟く。奏江がひとつ息を呑んだ。
 「聡いのはそちらのようですけど」
 「どうかな…とりあえず、俺も君の話を聞かせてもらいたいな」
 決定事項のように蓮は要請し、再び元の姿勢に戻って目を閉じた。
 ほぼ同時に、ことこと足音がして盆を抱えたキョーコが入って来る。奏江の呆れ顔を見て、すこし首を傾げた。
 「どうかした?モー子さん」
 「何でもないわ。いい香りね…」
 ほのかにハーブの香りが漂っている。目を細める友の姿に、調薬の魔女は嬉しそうに笑った。




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もうだめなんて気のせいだって!(7)

 「蓮さん、蓮さんっ…やだ、こんな」
 蒼白になりながら、キョーコは襲撃者の腕をうんうん引っ張って蓮の肩から引き剥がす。それをうっちゃると、男の上に屈み込んだ。手を当てて下にしているので、傷口が見えない。
 「蓮さん、傷を上にして下さい!診ますからっ」
 「…うん…?」
 頼んでも蓮は茫洋とした眼差しを彼女に当てるだけで動こうとしなかった。キョーコは半泣きで元夫の服をつかんで引っ張り、数cmずつ体勢を変えさせた。
 「お、重いぃ…」
 思わず呻くと、蓮の目がうっすら開く。
 「ああ…ごめんね、キョーコ。でも、君を抱きしめて眠るのが好きなんだ…」
 かすれた声で呟いて手を伸ばして来るので、調薬師は爆発しそうになる。
 「なに寝惚けてるんですか、そんなこと言ってる場合じゃ」
 喚きかけて、彼女はうろと瞳をさまよわせた。見る見る顔を真っ赤にし、のろのろと蓮の耳もとに顔を伏せる。
 「えっと…あの、蓮さん。ねえ、上向いて?キス、しにくいの…」
 揺れるソプラノが囁けば、男は幸せそうにほにゃと笑い、素直に仰向けになった。
 伸びて来た手を避け、キョーコは大急ぎでシャツの脇腹を裂いて傷を検める。20cmほどに亘る裂傷は深くはないようだが、周囲が紫色に腫れ上がって熱を持ち始めていた。
 「毒…!」
 鼻先を近付ければ、かすかな臭気が届く。
 「これは…ホキリソウ!?」
 まずい。かなり強い神経毒だ。キョーコは急いで立ち上がり、解毒の準備にかかった。
 



 「キョーコ!キョーコいる!?」
 ずばたん、とドアがぶち開けられ、黒髪の美女が駆け込んで来る。
 「あ、モー子さん」
 大男をうんうん唸りながら少しずつ少しずつ引っ張っている"痩身の魔女"の姿を見て、安堵とも呆れともつかない息を吐いた。
 「よかった、間に合っ…」
 と言いかけ、彼女は玄関脇にマグロのように転がっている物体に気付く。
 「!」
 気絶した黒衣の女の顔を確かめ、それからキョーコにじりじりとソファへ向かって引きずられている男に視線を移した。だいたいわかった、と頷く。
 「モー子さん、手伝ってええ~。蓮さん、私を庇って切りつけられて、しかも短剣に毒が塗ってあったの!解毒はしたんだけど、ちゃんと休ませなきゃ…」
 「やっぱり、そんなところだと思ったわ」
 小さく独りごち、
 「あんたさえいれば簡単に死にゃしないわよ、そんな男」
 吐き捨てるように言った"モー子"こと琴南奏江は、それでも仕方なさそうに友のもとへ行く。
 「だけどまあ、うちの不始末でもあるし…」
 「え?」
 「あの人、うちの会員なの」
 キョーコの反対側で蓮の腕を取り、奏江が顎で差すのは玄関先のマグロ、女襲撃者だった。
 「え、ガラの会の!?」
 年中無休のダイエッター・奏江はガラの会の高位幹部で、そのダイエットに対する真摯かつ厳密な姿勢から次期会長の呼び声も高い。
 「どっ…どういうこと?どうしてガラの会の人が私を狙うの!?」
 思わず蓮の腕を取り落としそうになって慌ててつかみ直しながら、キョーコは狼狽も露わに問う。奏江は美しい顔を歪め、
 「下らない理由なのよ…」
 苦く呟いた。




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もうだめなんて気のせいだって!(6)

 「俺をダシにした」
 ぶち、と言われて、キョーコは『来た』と首を縮めた。
 「わ、悪かったと思ってます。でも円満に収めるのに」
 「あれが早かったのは本当だろうね。まあ、別にいいよ」
 道具を片付けながら、蓮の方は広い肩を竦める。
 「え?」
 そうあっさり来るとは思っていなかったキョーコが思わず見返すと、仕事を終えた何でも屋は修繕した井戸の釣瓶を繰って確かめてから彼女に向き直った。
 「本当にしてくれればね」
 言うが早いか唇を盗まれ、彼女は真っ赤な顔で拳を振り上げる。
 「れっ蓮さん~!!」
 しかし額を押さえられると、リーチの差で男の胸に届かない。やむなく、膨れ顔のまま踵を返した。
 「帰りますっ」
 「うん、そうしよう」
 笑いながら蓮が応じる。
 「別々にですよ!?」
 身を引くキョーコに、彼はきっぱり首を振った。
 「ダメ」
 「だからなんで、そういう…貴方に禁止される覚えはありません」
 「覚えなんかどうでもいい。今、一人歩きなんて許せるわけないだろう?」
 その声があまりに真剣だったので、キョーコはぴたと足を止め長身の男の顔を振り仰ぐ。
 「蓮さん?」
 「昨日襲われたばかりでフラフラ出歩いて…」
 「だって、ここへ来る事は前からの約束で」
 「一人で、なんて言われてないんだろう?…君は、俺がどれだけ心配してるか少しもわかってないんだな」
 「え…」
 息を呑むキョーコに、蓮は哀しげな瞳を向けた。
 「それとも…わかってても、俺の心配なんて、俺なんてどうでもいい?」
 「そんな!違います。私、蓮さんのことどうでもいいなんて」
 「思ってないんだ」
 にやりと笑われて、キョーコの口がはくりと閉じた。
 「ずるい、です。そういう言い方」
 男を見上げれば、相手の顔からすうと表情が落ちる。互いの瞳に映る互いの瞳の揺れに、彼女はいたたまれずに顔を伏せた。
 その背を促し、蓮が歩き出す。
 アーチ門をくぐる頃、彼はぽつりと呟いた。
 「ずるいのは、君だよ…」



 会話らしい会話もないまま、キョーコの家が近くなる。
 ささやかな小家の前で立ち止まり、蓮は意を決したように口を開いた。
 「キョーコ、やっぱり暫く…」
 言いかけたまま、彼は切れ長の目を見開いて一瞬立ち竦む。
 「危ない!」
 細い腕をつかまえて思い切り引っ張った。
 「きゃ…」
 キョーコと体を入れ替えた蓮の脇腹を、銀色の光がかすめる。ぱっと血がしぶき上がった。
 「蓮さんっ!?」
 高い悲鳴。男はそれに構う余裕もなく、更に繰り出された刃を避けて身をよじった。短剣を握った手をつかみ取ってねじ上げる。
 「!!」
 苦鳴を上げたのは黒衣覆面の襲撃者、それから凶器を取り上げて放り捨てると、蓮はもがく首筋に手刀を入れた。へたへた崩れ落ちるのから覆面を毟り取ると、長い髪がこぼれる。
 「女…?」
 「れ、蓮さん」
 「キョーコ、ケガは!?」
 「あ、ありません…蓮さんこそ、そんな」
 「ああ…」
 蓮は脇腹を押さえながら気絶した襲撃者を担ぎ上げる。
 「とにかく、家に入れてくれるかな」
 「は、はい!」
 キョーコが慌てて自宅の扉を開け放つ。蓮はふらつきながら一歩一歩を運び、玄関に踏み込むと同時にがくりと膝を折った。
 「蓮さんっ…!!」



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