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ROMANCIA 26

 こそ、と擦れた音が鳴る。
 びっくり飛び上がるキョーコの様子に、レンが小さく噴き出した。
 「風だよ」
 「は、はい。でもこのあたり、たまに蛇が出るって」
 女魔道士は怖々足元の草叢を覗き込む。青年はもうひとつ笑って少し先の木の根方を指した。
 「うん、あの辺にもいるね」
 「ええっ!?」
 ばびゅ、と娘が飛んで来た。竜の化身の腕にしがみつく。
 「ややややだ、毒?毒持ってるんですか!?噛みませんよね!!?」
 「いや、うん…大丈夫。俺といれば、近くには来ないから」
 「そうなんですか!?よかった…」
 安堵したら状況も見えたらしい。彼女は慌てて男から離れ、やだもうと自分の頬をさすった。
 「キョー…」
 「えっと、術です!!さ、さっさと終わらせてテントに戻りましょう!」
 ぶんと両手を振って言い切れば、何か言いかけていたレンが口を閉じて苦笑する。前に差し出した手のひらの上にぼんやりと光がともり、数度明滅して冷えるように消えた。あとに、黒っぽい艶を放つ一枚の鱗。こんな闇の底ではその色は目には映らないけれど、心には染むように映っている。
 「はい」
 青い鱗を手渡され、キョーコは両手で受け取った。
 「呪文もあげるから、そのまま手を出してて」
 レンに言われて動作を止める。
 そっと伸ばされて来た大きな手が、彼女の両手をぬくめるように包んだ。小さく肩が動くのを、キョーコは意思の力で抑え込んだ。こっそりと青年の顔を盗み見る。
 伏せられた眼の奥に歳月を湛えた瞳が隠れ、端正な顔はいつもよりさらに若く見える。人の年齢と比べても仕方ないけれど、実際にはいくつなんだろうと疑問を覚えてしまった。
 「キョーコ?集中して」
 「す、すみません」
 慌てて注意を戻すと、街でも経験したように頭の中に呪文が紡ぎ出されて行く。水と…風と地の力も関わるのか?地中を進む白い蛇のようなイメージ。この蛇なら、むしろ来てもらわなくてはならない。
 脳が熱くなる心地がした。自分の中に新しい魔法が宿るのを感じる。
 「…ね」
 レンが何か言った。ぼんやり上げる瞳に、やわらかい微笑が映る。
 「君のイメージ力は、すごいね」
 キョーコは自分の手が、青く清らかな輝きを放っているのを見た。水のように澄んだ。





 
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ROMANCIA 25

 「ええっ、そんな、むっ無理ですよ!?」
 一つのテントから、素っ頓狂な声が上がる。するともう一つ、もっと深く落ち着いた男の声が続いた。
 「そんなことないよ、大丈夫」
 一瞬視線を集めた人々が散っていくのを感知していたのかどうか、レンはちらと入り口に垂らされた布を見てからキョーコに笑顔を向けなおす。
 「でも私、地中の水脈を呼び寄せるなんて、そんな高度な魔法は使えませんっ」
 「俺がちゃんとサポートするから」
 「うっ…」
 女魔道士が呻いた。
 「貴方にそんな風に言われると、できるような気がしちゃうじゃないですか…これはいいんですか!?」
 「え」
 「人としての力、って範囲に入るんですか」
 「ああ」
 蒼い竜の化身が笑う。
 「俺が雨を降らせ続けて池でも作るよりは、よほど人間らしいんじゃないかな」
 「……☆☆☆」
 なんと言う感覚の差。キョーコに絶句以外の何ができただろう。
 「それにほらキョーコ、始めに設定したじゃないか。俺は偶然この地に来た薬師。魔道士は君の方なんだから、魔法を使うなら君でないと」
 そういう問題じゃないと思うのだが、それもまた問題ではある。レンに直接魔法を使わせたりしたら、あっと言う間にその実力が知れ渡り名声は天まで高く…ということにもなりかねない。それはきっと、竜であるとばれる危険性を差し引いても彼の望むところではないのだろう。
 だからと言って、彼女が彼の力を借りて大魔法を駆使し、似たような結果になるというのも御免被りたい。八方塞がりのようなこの状況を打開する妙手がどこかに落ちていないものか…
 悩める女魔道士を、レンが不思議そうに見ている。何を呑気な顔をしてるんですかまったくもう、と言いたかったが仮にも師匠と仰ぐ人物いや竜だ。
 「水は必要だよ?」
 困っている間に、決定的な一言を吐かれた。それは、絶対にそうだ。人間に限らず生き物がいるところ、水は必ずなくてはならない。ましてや、自力で水汲みにも行けない病人を多く抱えるこのキャンプで、手近に水場がないのは致命的だ。本当なら街の端をかすめて海へ続く川の上流に移転したかったが、街の人々の感情を思うと疫病者を連れてそこへ行くことはできなかった。ヒカルたちは、元気な者でかわるがわる水汲みに出るつもりでいるようだが、ただでさえ人手の足りないところへ毎日の賦役が増えては大変だろう。
 結局、レンは正しい。尻込みしている場合ではないのだ。
 「…じゃあ、あの、夜中にこっそりってことで…」
 言ってみると、青年が笑う。
 「OK。二人きりでね」
 「えっ、あ、はあ…」
 言い回しに難があるけれど、別に特別な意味があるはずはない。キョーコはスルーを決め込んで実際的な話に移った。
 「何か用意するものはありますか?術の触媒とか…」
 「そうだね…俺の鱗をもう一枚提供するかな?」
 魔道士が大きな目を瞠る。そう言えば、そんな貴重なアイテムが難なく手に入るのか。
 「それで、私は何をすればいいんでしょう」
 職業柄、少しわくわくし始めながら尋ねて。彼女は。
 「水の精を呼び出して、水脈を繋いでもらおう」
 その答えに、沸騰しそうになった。
 「水の精…っ!!」




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ROMANCIA 24

 施療キャンプは、街から近くも離れすぎてもいない、丘のふもとに移されることになった。即席のキャラバンを結成して、馬車に病人や荷を載せ歩ける者は歩き、ぞろぞろと移動を開始する。
 「私にも、大きな翼があったらいいのに…」
 ぽつりと呟いたキョーコに、隣を歩いていたレンは馬を宥めながら視線を向けた。
 「どうして?空を飛びたいとかなら、いつでも俺が乗せてあげるけど」
 「それもいいですね」
 娘が笑う。
 「でも、そうじゃなくて…こんな時に、翼があったらみなさんを一気に運んだりできるのかなって」
 「ああ…」
 竜の化身が黙った。しまった皮肉に聞こえたかしらと焦るキョーコがちらと顔を覗き上げると、相手は穏やかに、少し寂しそうに微笑んでいる。
 「でも、そんな風にね…はっきりわかる形で関わっちゃいけないんだ。俺はそれで、失敗したから…」
 「え…」
 静かに言われ、女魔道士は自分の背中を窺うように身を捻りながら、何となくわかるような気もすると思った。竜が、存在の桁が違いすぎる生物が身近にいる、助けてくれると思わせることは、長い目で見れば人のためにならないかもしれない。
 「ごめんなさい…」
 彼がそんな言葉を求めているとも思えなかったが、軽率な発言だったと思えば謝罪せずにいられない。しおしおと俯いたキョーコの髪を、青年はくしゃりと撫でた。
 「でも、人として可能な範囲で力を尽くすから」
 「はい…ありがとうございます」
 日はまだ中天にあり、うららかな陽射しを地上に投げかけている。隣にはそれを受けて頼もしげな美青年。人としての範囲だけでも、このひとがいることは大きいと娘は思う。
 のだが。
 「水場が遠すぎるから、なんとかしたいね…」
 ふとした呟きを聞き取り、それは人の手の及ぶところだろうかと首を傾げるものだった。
 




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ROMANCIA 23

 青年医師はヒカルと名乗った。争いごとは苦手らしい。
 「防備ちゅーても、こっちは病人ばっかりやさかい…」
 と言うのだが、では施療テントの移動かとなると、これも簡単には済みそうにない。どうしたものかと鳩首のところへ、おずおずといく人かの街人が近付いて来る。家の中から様子を窺っていたものだろうか。
 「あの…」
 中の一人、農夫らしい中年男が半端な位置に止まったまま声をかけて来た。振り向いた何ですかと近寄ろうとすると同じだけの距離を後ずさりする。
 そう言えば注意深く風上を選んでいる様子、つまりは病の伝染を恐れているのだろう。
 眉宇に苦渋を滲ませながら、医師は足を止めて男の言葉を待った。
 「あの、な、あんたら…ご領主の命令じゃ、立ち退かにゃいかん、だろ?」
 訥々と切り出す言葉を、ヒカルも、その後ろに佇むキョーコとレンも黙って聞く。
 「あれだったらあれだ、ほら、荷車とか貸す、いや、やるから…必要なら、言ってくれりゃ」
 やたら言いにくそうにしているのは、善意の陰にそれで出て行ってくれるなら、と思う気持ちがあり、それを自分で疚しく思うせいだろう。しかし彼を責めるわけには行かない。誰だって疫病は怖いのだ、自分ばかりでなく家族まで危険に曝される以上。
 「ありがとうございます。お願いします」
 ヒカルにそれ以外の言葉が言えたはずがない。頭を下げる彼に、中年男はほっとした顔をした。
 「じゃ、じゃあ、早速持って来るからよ」
 彼がさっと身を返すと、やりとりを見守っていた他の人々が、じゃあうちも荷車を、じゃあ私は食料を俺は毛布をと散って行く。
 ややぽかんとしているヒカルの横に、いつの間にか近付いて来ていたキョーコが立つ。
 「皆さん、気にはしてらしたんですね」
 「う、うん…」
 呟くのへ、医師はへどもど頷いた。それだけではないとしても、善意がないわけでもないと思う。
 「とりあえず、移動は決まりですね?」
 「うん…そう、やね」
 街人の気持ちもわかる。こうなっては他に仕方がないだろう。表情を引き締めるヒカルに、キョーコがにこりと笑った。
 「乗りかかった舟ですし、私たちにもお手伝いさせて下さいね」
 「え、あ。おおきに…」
 不思議な二人連れだと見返して、彼はレンのしぶい顔に気がついた。どうもあちらの彼は、乗り気ではないような。
 



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ROMANCIA(22)

 「自分ら魔道士なん?助かったわー」
 煤まみれになった白衣を叩こうともせず、医師はまっすぐキョーコの元へ来た。茶色の髪、西方訛りの言葉と明るい瞳に愛嬌がある。あまり背は高くない。
 「おい、お前たち、なんだ今のは!」
 「何言うてん、そっちこそいきなり無茶しよって…」
 すぐ追いすがって来た兵士たちの声を受け、彼は彼女を庇うように身を返す。
 「我々の邪魔をするな。ご領主の命令に逆らう気か!?」
 しかしあえなく押しのけられ突き飛ばされてしまった。よろめくのへキョーコが慌てた声を投げる。
 「だ、大丈夫ですか!?」
 「あー、大丈夫、大丈夫」
 「おいっ、聞いてるのか!」
 隊長がキョーコの肩をつかもうとする。
 しかし勿論、竜がそんなことを許すはずがない。つかみ上げた手を捻ると、羽飾りの兜が落ちてガランと重い音を立てた。
 「き、貴様ッ」
 「彼女に触れないでもらおう。大体、こちらに文句をつけられる立場なのか!?いくら疫病が怖いからと言って病人を焼き殺すような真似を…邪魔どころか外道に堕ちるところを救ってもらったと感謝されてもいいくらいだ」
 低いがよく通る声で脅しつけると、貧相なちょびヒゲの中年男はさっと顔色をなくした。
 「な、なんだと…」
 「ちがうのか?」
 一音ずつ刻むようなレンの問い。隊長の背が跳ねる。
 「ち、が、わ、ない」
 竜と同じような調子で、もっと虚ろに呟いて、彼はゆらゆらと視線を揺らした。
 「ひどいことを、するところだ、った」
 「だろう?戻って、領主に考え直すように勧めたほうがいい」
 「わ、かった」
 レンが手を離すと、男は奇妙に緩慢な動作で身を返す。腰の引けている部下たちに、合図の手を振った。
 「引き上げる」
 


 「何、したんですか」
 キョーコが半分呆れるように見上げると、古き竜の化身はにこり微笑んだ。
 「大したことはしてないよ?」
 「貴方にとっては、そうかもしれませんけど」
 「いや、ほんとに。言霊は使ったけど、あれだけ効いたのは彼の心の中にも疚しい気持ちがあるからだし」
 「はあ…」
 仕方なさそうに納得を示す娘から視線を外し、彼は青年医師に促す。
 「多分、また別の隊かが来るでしょう。今のうちに移動するか防備を固めるかした方がいい。どっちにしますか?」
 「ぼっ…防備!?」
 医師の驚くこと。キョーコも同様にびっくり目になっているが、こちらは少々意味が違うようだった。
 「レンさん、この件に関わる気なんですか?」
 おや、と心外そうに長身の青年が首をかしげた。
 「君が助けてって言ったのに」



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