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NO LOVE, NO LIFE!?(1)

 今日も今日とて半ば強制的に拉致されて来たトップ俳優の部屋。リビングに二人ぼっち、テーブルの上には食後のお茶が冷めかけている。
 しかしキョーコはそれどころではなかった。
 見られてる。
 強い視線に、かち合わないように注意深く横目を流した。
 「ん?」
 そこにはキュラキュラしい笑顔の俳優が悪びれずに小首を傾げている。あまつさえ、
 「どうかした?俺の可愛いキョーコちゃん」
 などと尋ねつつ頬に手を伸ばして来るので、少女は反射的にそれをはたき落としてしまった。ぺっしといい音がする。
 「痛いよ、キョーコちゃん」
 そうでもなさそうにのんびり抗議された。相手は先輩だから仕方なくすみませんと口にはしたが、実のところ自業自得と言うのだとキョーコは思う。
 なんなの、この人は。
 というか。なんなの、この状況は。
 考えたら負けなのかもしれない。それでも人は思考の生物であり、最上キョーコもまたその一員なのではあった。




 事の起こりは、そう、ちょうど一ヶ月前になる。
 奇癖と奇行で知られる奇矯な某芸能事務所社長が、突如叫んだのだ。
 「社内パーティーを開くぞ!!」
 人々はド派手な会場と巻き込まれた自分を瞬時にイメージしたと言う。あまりにも通常運転な発言だった。
 が、その一方で。
 ローリィ宝田(あ、言ってしまった)、ただの派手好きではない。
 愛を愛し主食とする驚異のラブモンスター、その企むところ常に愛あり。同時に、多く傍迷惑が付随するのが困り物であり、キョーコにとっては今回もその例に漏れることはなかった。
 それは、いわゆるお見合いパーティーだったのだ。
 どこぞの結婚相談所か宗教団体か(ネタ古)、と人々は力なく笑ったが、各人のデータを検証し見合いの組み合わせを決めるコンピュータ回路にローリィ宝田という名がついていることを知るや、更に微妙な顔をした。しかも、この際に組み合わされた二人はともかく交際期間を持たねばならない、と言うのだから無茶振りにも程がある。
 これまでの短くない人生を愛とカンで泳ぎ渡って来た男の選択。それは、
 どんな結果を生むのだろう。



 「どんなもこんなもあるもんですかっ」
 キョーコは叫んだ。明後日を見上げて拳を握っていてさえ、トップ俳優はあくまでにこやかに見つめて来る。
 「誰に話してるの?」
 尋ねたと思ったら今度は抵抗の暇もなく頤を取られ、強制的に視線を合わせられた。
 「俺といる時は、俺だけを見て欲しいな」
 なんというベタな台詞か。しかしそうであってさえ、行使者の別は効果に大きく関わるのだと彼女は知った。
 乞われるまでもなく、近く寄せられた唇の動くさまから目を離せない。天然記念物乙女は炙られているような心地に縮こまり息さえ詰めて堪えた。何に炙られているのかはわからない。
 「は、なして下さい」
 真っ赤な顔で懇願すると、目の前の端正な顔は苦笑を作って距離を取った。
 「もうひと月も経つのに、なかなか慣れないね?」
 少し呆れた風に言われ、プライドが刺激される。
 「しっ仕方ないじゃないですか、もともと免疫がないんですからっ。だいたい、敦賀さんみたいな綺麗な人のアップなんて、見慣れる先に見とれちゃってそれどころじゃな」
 一気に並べ立てたはいいが、途中で何かおかしいと気付いてキョーコは自分の口を押さえた。
 「……」
 ちとりと見上げると、予想通りのとろり甘い微笑がそこにある。
 「それは光栄だね、面食いのキョーコちゃん」
 「~敦賀さん、完全に楽しんでますよね!?」
 精一杯の抗議もどこ吹く風、蓮は軽やかな笑声を上げた。
 「それは勿論。今時こんな反応を見せてくれる子もなかなかいないから、貴重な体験だと思えば余計にね」
 「うう…」
 キョーコはぺしょりと床に手をついた。
 「いいですよ、先輩俳優様の演技の肥やしにでもして戴ければ本望ですとも…」
 呟く耳に、ふすと笑い息が届いて涙目で顔を上げる。すると、一瞬目を瞠った俳優が、こみ上げるというように微笑んだ。
 「そんな可愛い顔をしない」
 「か!?」
 「君にとってだって、いい経験にすればいいだろう?」
 暫定とは言え恋人関係の。
 説得力があるようなないような提案をキョーコは心中に吟味し、先輩から見合い相手へ、更に交際相手へとシフトした青年におぼつかない視線を向ける。
 「経験になる前に、血管が切れそうなんですが」
 いろんなところの。
 呟いたのは間違いだったかもしれない。
 「そう…」
 蓮は笑んだのだ。それはそれは輝かしく。
 「じゃあ、そんなことにならないように、もっと優しくじっくり慣れさせてあげないといけないね」
 「え」
 展開について行けない少女に、青年はにこりと笑いかけた。
 「手始めに、デートでもしようか。ちゃんとした」






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フォルトゥナタ(44)

 まだ日は高い。
 しかし一日の行軍ノルマを終えたレギオンは、先遣の測量兵と工兵の選定した用地で野営地の建設を始めた。各地形に合わせて用意された設計図に従って手早く塁壁が作られ、門と通路が作られ、テントが張られて行く。たったひと晩を過ごすだけのためのものでも、手は抜かない。安全な休息こそが士気を保つ秘訣だとばかり。
 「折角ですから」
 その物音が、ここまで響いて来る。奴隷商なぞはその内に入れてもらえるわけもないが、マイウスの商隊もその近くに野営の準備をしていた。こちらのリズムは、軍団に比べてやや調子っ外れではある。
 時々がくりと肩が下がりそうな音を背景に、キョーコはぴょこんと人差し指を立てた。
 「更に商売なんてしてみません?」
 「ふむ」
 マイウスが満更でもない顔で首を傾げる。
 「と言うと?」
 パン職人はひとつ頷き、ちらりと軍団野営地の方角を見やった。
 「レギオンで支給されるパンは、あまり質がよくないって聞いたことがあるんです」
 「ああ、パンって言うか、ありゃ石臼が悪いんだな。小麦粉に砂利が混じるもんだから、歯がボロボロになっちまう兵もいるんだ」
 「うわあ…」
 キョーコはげんなりした顔をした。
 「それは、よくないですよね…奥歯が噛み締められないと、体の力も入りにくいですもの」
 「ああ…そうかも?けど、それが…ってまさか」
 奴隷商は彼女の職業を思い出したようだ。キョーコはにこりと笑った。
 「私の焼いたパンを、売り込んでもらえませんか?」
 「…あー…うん、まあ、気持ちはわかる、けどな。イリストゥリス様の隊だけって訳にゃ行かないだろ?」
 「別に、そんな風に限定しようとは思ってませんよ」
 「はあ?レギオン全体のパンなんか、あんた一人で用意できるわきゃないじゃないか」
 何言ってんだとばかり目を剥くマイウスに、パン屋は軽く肩を竦める。
 「正しいご意見ですね。材料からして足りません」
 「だったら…」
 「だから、お力を借りたいんですよ。軍の食料庫から小麦を出してもらって、ちょっといいパンを焼いて納入したものを各隊に持ち回りで分配…なんて話を持ちかけてみて欲しいんです。軍団の偉い方に」
 「俺が話せる程度じゃ、大して上の方にならないけどな…けど、持ち回りか…」
 奴隷商がほつと呟いた。
 「そんでも、うまいパンが出るとなりゃ楽しみができるし、ちょっとした褒賞に使うってのもありかもしれないし、何より…そうとなりゃ、幹部クラスには毎日そのパンが出されるかもしれない」
 生き馬の目を抜く業界で生きる者の勘ばたらきか、マイウスの思考はつぎつぎと展開して行く。説明の手間が省けたキョーコが逆に気後れしてしまうほどだった。
 「まあ、そんな、何でもかでもうまく行くとは限らないんですけど…とりあえず、何かしたいんですよ」
 中年男が唸った。頷いたようでも、考え込むようでもある。
 「しかし、それにしたってある程度の数が要るぞ。そんな大量のパンを、この旅の空で焼けるのか?」
 ふっ。
 と笑ったパン屋の顔は、やけに不敵な色を帯びていた。
 「ご心配なく。今日、歩きながらずっと考えてました」
 「大量のパンを焼く方法をかい」
 「ええ。と言うか、王宮で見たかまどの簡易な再現方法をです!」
 




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あなたが夢を見るのなら

 彼は微笑む。
 「俺は大丈夫」
 白い部屋、白いベッド、白い…笑顔。
 そうして、彼女を拒絶する。
 「だからもう帰りなさい、最上さん」
 「敦賀さん…!」
 キョーコはぶたれたように顔を歪めた。
 名前で呼ぶようになっていたのに。思いを通じ合わせた瞬間、待ちかねていたようにそう呼ぶ許可を請われて。
 なのに今、先輩の口調で苗字を口にする。
 二人の関係性を過去へ押し戻そうとするような言動がどこから来るのか、彼女にはわかっている。
 だから、哀しい。
 眉を下げたまま蓮の顔を見上げるが、視線は合わなかった。故意に逸らされている風でもない。
 キョーコは慄然と悟る。彼は今、彼女が見えていない。
 きゅう、と心臓の縮む心地がした。
 目から、唇から…心から、ほろりと転げ出て来るものがあった。
 「…蓮」



 敦賀蓮が京子との婚約を発表したのは、秋口のことだった。
 女優として自らの努力によって地歩を固めて来た彼女との交際は概ね好意的に受け止められ、二人には時ならぬ春が訪れていた…
 その、矢先。
 ロケ中の事故で、俳優は視力に障害を負った。
 見えている時、ぼんやりと見えている時、見えていない時。ランダムに現れる状態変化は全く予測がつかず、彼は日常生活にも不便を強いられることとなった。
 視覚には、『新しい視覚』と『古い視覚』があるのだと言う。
 『新しい視覚』は人類を含む霊長類に特徴的に具わる。眼球から入った情報は外側膝状体と呼ばれるニューロン集団に達し、視覚を意識する一次視覚皮質の先へと入力を伝える。
 これに対し『古い視覚』はほとんどの生物に共通し、眼球からまっすぐに脳幹の上丘部分に情報が伝えられ、頭頂葉を中心とした皮質野に至る。これは目に飛び込みそうになった異物など、本能的に視野の中心に入れたいものの方向へ瞬時に眼球を動かす早期警報システムとしての役割を担うと考えられ、空間視の能力にも関わるという。
 検査によって、蓮の眼球その他、肉体的デバイス的な機能に問題はないと判明している。障害は主に『新しい視覚』においてであり、つまり障害箇所はそれに関わる脳の部位にあると見られた。
 次第に、仕事に支障が出ている。
 『古い視覚』と生まれ持った反射や判断力のおかげか日常生活では『不便』で済んでいるものの、繊細な目配りひとつが重視される俳優業においてはそうも行かないのだ。
 特に、敦賀蓮はその場を支配するほどの演技力を評されている。相手役と視線も合わない時があるのでは、誰よりも本人が納得できなかった。
 びっしり詰まっていたスケジュールを前倒し繰り延べ多くキャンセルと調整し、彼は手術を受けることを決めた。これに際して、自分以上の奔走を強いられたマネージャーには心底申し訳ないと思ったが、一度そう口にして叱られてからはもう言わなかった。
 そして手術は        失敗した。
 視神経を圧迫していると見られた小さな血栓を取り除いても、症状には改善も緩和も見られなかった。むしろ、次第に前よりも失明時間が長くなって行く。目眩や頭痛、嘔吐までが起こった。
 以降、彼は障害部位の特定のための検査と、手探りの治療を受けている。



 「…キョ」
 呼びかけた蓮が苦く口を閉じる。けれど目は丸いままだ。
 驚いているのだろう、キョーコは今まで何度求められても彼を名前で呼ばなかったのだから。
 「諦める気なんですか?」
 彼女は震えそうになる声を励まして問いかけた。
 常ならぬ状態にある今、彼が彼女を遠ざけようとするのは負担をかけまいとしてだ。まだ可能性の有無も確認されていないのに、最悪の時のための布石として距離を置こうとしている。
 冗談じゃない、と彼女は思う。諦めることなんて許さないし、もし最悪の事態が現実となったとしても、一人で苦しみに浸らせることなんかもっと許さない。
 眼差しを強めるキョーコに、声を頼りにしたらしい蓮がともかくも顔を向け直して来た。
 「そうじゃない、…」
 「ですよね!!」
 弱い声が『でも』と続ける前に、女優は殊更明るく言い切った。
 「あなたが、演じることを諦めるはずありません。でなきゃ、そもそも今ここにいないはずです」
 「っ……」
 俳優が息を呑む。交際を始めた頃に聞かされた過去の話を、彼自身もいま思い出しているだろう。そう言えば、あの話をする時にも彼は、彼女が離れて行くのではないかと思っていたようだった。
 キョーコは、ばかなひと、と口の中で呟く。
 貴方は欲が深いのに。
 普段は恬淡としてても、本当に望んだものは何一つ諦められないくせに。
 そのまっすぐな眼差しが視力によるものなんかじゃないって、どうして知らないんだろう?
 だいたい、治れば万事よし、治らなくても少し遠回りするってだけでしょうに。と根性娘はごくシンプルな思考に落ち着いた。
 だから。
 「私はそんな貴方に惹かれて追いかけて、やっと隣にいられるようになったんです」
 だから無駄ですよと。キョーコは微笑む。
 「貴方の夢を、一緒に追いかけましょう?」
 「キョーコ…」
 ベッドの上に座る俳優が、くしゃりと顔を歪ませる。その額へ、伸び上がった彼女は誓うような口づけを落とした。







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フォルトゥナタ(43)

 「見送りはいいよ」
 離れられなくなりそうだからね、と笑うクオンティヌスを、キョーコは寝台の中からじっとりねめ上げた。
 二人でいる寝室には奴隷も入れないことになっている。身支度を整える夫を手伝うべきところだが、明け方まで散々構い倒された体は指一本動かすのも辛いほどに重い。
 それでもどうにか身を起こそうとするのへ、理解あるのか気が咎めるのか、夫はいいから横になっておいでと手を添えた。
 「ご無事で…」
 せめてもと言えば、礼の言葉と共に短い口づけが降って来る。
 「さて、もう行かないと」
 名残惜しげに妻の頬を撫でてから、騎士はマントを翻して戸口へ向かった。その背に、
 (私が行くまで)
 心の中でだけ、キョーコは付け加えるのだった。




 約束の場所へ行く。
 興奮気味の人々でごった返す広場の片隅に、奴隷商人マイウスは既に来ていて、ゆったりとロバの鼻面を撫でていた。意外に優しい手つきに驚いていると、男がひょいと振り返る。
 「ああ、おはよう。
 「…って、朝っぱらからえらく疲れてるようだが大丈夫かね」
 近付く間に指摘され、キョーコは力ない笑みを返した。
 だってしかたないだろう。君を備蓄しなきゃだの言って一晩中一睡も許されずに揺すぶられた後、大急ぎで家の中のことを細々ヨロヨロ片付けてパン屋ともども信頼できる奴隷たちに託し、店に隠しておいた荷物を引っ張り出してここへ来たのだ。元気一杯とは行かないに決まっている。
 なんでクオンティヌス様はあんなに元気なの、ずるい、と思うのはもちろん胸のうち、彼女は溜め息を噛んで微笑み直した。
 「お待たせしてすみません」
 詫びると商人は時間通りだよと笑う。精密な時計などないこの時代、人々の時間感覚は鷹揚なものだ。
 「ほら」
 と手綱を手渡され、キョーコは大きな目を瞬いた。このロバを、自分が引いていけという意味だろうか。
 おとなしそうだし別にいいけど、と思っていると、商人は意外なことを言った。
 「そいつに、あんたの荷物載せな」
 「え」
 「重い荷物しょって何日も歩いたことなんかないだろ?最初のうちは空いた荷車にも乗せてやれるが、塞がって来たらそうも行かないからな。そいつに乗る練習もした方がいいだろう」
 「荷車って」
 奴隷運搬用の、か。空いているとかいないとかでなく乗りたくない、とキョーコは思った。
 それでも、思ってもみなかったことに一応労ってくれているらしい。まじまじとマイウスの顔に見入ってしまった。
 「意外と親切なんですね」
 ついポロリと零すと苦笑が返る。
 「却って失礼だろ。
 「まあ別に、預かった支度金で買ったんだから俺の懐は痛んでないからな。ちょっとこう、アレだ、感動したってえか、旦那のために命張る女なんての初めて見たし」
 奴隷商は何やらぶつぶつ言い始めた。
 「うちのなんざ、クレメンティア(仁慈)なんて名前だけで、欲は深いわ食い意地は張ってるわ寝汚いわ見栄っ張りだわ始終文句ばっかり並べ立てるわ…」
 だんだん愚痴になって行くのでキョーコは困ってしまった。そのうちにマイウスが我に返り、ごほんと咳払いをする。
 「とにかく、じきに出発だからな。早いとこ準備済ませてくれ」
 ぴっと指を突きつけて、彼はさっさと踵を返した。向かう方向にもロバが繋いであるので、たぶん彼の分なのだろう。旅は慣れているだろうけれど、さすがに特殊スキルとなる乗馬まではしないようだ。
 夫の顔を思い出してしまった。やっぱり見送りはしたかったなと思ったけれど、しなかったのではなくできなかったわけで。
 嘆息を空に放れば、だいぶ日も高くなっている。クオンティヌスの率いるミリアリア(千人隊)はもう出発しただろうか。
 石畳の街道を行く“軍隊歩調”の足音を聞いた気がして、彼女は少し眉根を寄せた。さて、どうすれば彼の隊の近くに行けるだろう?
 雇われの身では行動に制限もあるが、そうしなければそもそも軍団に従う旅にも出られなかった。考え込むところへ、マイウスに大声で呼ばれた。
 「もういいか?そろそろ行くぞ、イリストゥリス様の隊が出る頃だ」
 彼女は一瞬目を瞠り、礼の代わりに大きく頷いた。
 「はい!」





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だってアナタは○○だもの(後編)

 こんこん、と軽いノックの音がした。
 キョーコがはあいと返事をしてドアを開けに行く。それに迎えられて、
 「社さん待ちなんだけど、暫くお邪魔していいかな?」
 にこやかに同所属の先輩俳優が入って来た。
 どうぞと言われて微笑むさまは、奏江にはやはりし…親友、に惚れているように見える。大体、そんな理由でもなかったらどうしてこの忙しい人が事ある毎にラブミー部々室なんて場所に出没するのか。
 無料の喫茶処と思っているわけでもあるまいに…
 視線を流すと、はちりと目が合った。どうせお茶を淹れに行くキョーコを目で追っているだろうと思ったのが、なぜか自分を見ていたようだ。
 トップ俳優は当然のように慌てず騒がない。
 「琴南さんにも、いつも悪いね」
 あくまで愛想良く言うのだけれど、何だろう、笑顔に重圧感がある。若き女優は無意識に肚に力をこめたが、彼はじきに視線を逸らして今度こそキョーコに向けた。
 「さっき、楽しそうな声が外まで聞こえたけど。何の話だったのかな?」
 という台詞で気にしているところがわかり、先程のプレッシャーが嫉妬由来ではと思い至る。だって、『楽しそう』がやけに強かった。
 奏江はふと眉根を寄せる。
 案外小さいわ、この男。
 そうと思えば、手酷い失恋を味わったキョーコを任せるには不安がある。余人のことならば関与する気など起こすまいが、しっ親友の幸福に関わるとなれば話は別だ。
 眉間を絞る奏江をよそに、その親友はにこにことお茶を出しながら話に乗っていた。
 「お恥ずかしいです…いえ、可愛い小間物屋さんを見つけたので、琴南さんに一緒に行こうってお願いしてたんですよ」
 「相変わらず仲がいいね」
 「そんな…でも、そう見えるなら嬉しいです」
 キャッキャと喜ぶキョーコの姿は、照れ臭いから絶対に言わないけれど微笑ましいと言えなくもない。しかし、
 「何言ってんのよ…もー、恥ずかしい子ね」
 ついツンが出てしまう彼女に、蓮が再び視線を向けた。もちろん笑顔を保っているが、目が怖い。要らないならよこせと言わんばかりだ。
 だいぶ煮詰まってきてない?この人。と奏江は不安を覚える。
 「それで、お願いは聞いてもらえたの?」
 蓮の目がキョーコに戻った。横顔はただ甘いばかりだ。
 こっそり息をついた奏江だが、じきにまあいいと思いなおした。今のところ自分は、彼に勝っているはずなのだし。ラブミー部員1号は、2号が一番で最優先なのだ。照れ臭いからz(略。
 「えっと、それは、まだなんですけど」
 当のアンタが邪魔したのよ、とはさすがに言えないらしい。ちらりと視線をよこしたキョーコに、今なら承諾してもいい気がした。
 ところが奏江が口を開きかけるのと同時に、
 「じゃあ」
 と先輩俳優が妙に楽しそうに口を挟むではないか。
 「俺がつきあおうか?」
 「へ?」
 「は?」
 ラブミー部員は二人揃って間の抜けた声を放った。
 何を言い出すんだこの男は。自分がフラフラその辺を歩ける立場だと思っているのか。恋に目が眩んで常識が吹っ飛んだのか。そもそも似合わなすぎるだろう、敦賀蓮とかわいい小物は。ていうかこの男、キョーコに『つきあって下さい』とか言われてみたいだけじゃないのか。
 ぐるぐる考える奏江よりも先に、キョーコが我に返る。
 「いえ、あの…無理、では」
 そろりと言う、そうともその通り。つい大きく頷いてしまった彼女を横目で見て、トップ俳優は
 「どうして?」
 なんてキョーコに食い下がった。どうもこうもあるかと思うのだが。
 「だってそれは…私なんかが隣にいても人の目に連れとも映らないでしょうから、そこは置いておくとしても、敦賀さんがその辺にいるってだけで充分騒ぎになりかねないじゃないですか」
 余計な認識もくっついているが、一番無難で大きい理由を挙げたキョーコは正しいと奏江も思う。なのに蓮は、それはにこやかに言い放った。
 「大丈夫、変装して行くよ」
 「……」
 目眩を覚えた。
 馬鹿ですか。先輩でなかったら言いたかった。
 ああうん、キョーコバカですよね。すぐに思いなおした。
 「それは…バレるでしょう。ファンの目を侮っちゃいけませんよ」
 疲れた気分で、できるだけやんわり言ってみる。私が付き合うからいいですよ、と続けようとしたのだけれど、果たせなかった。
 「バレなかっただろう?」
 蓮は囁くように言って、キョーコだけに顔を向ける。背中に滲む雰囲気が変わったと思った。ひどく剣呑な、鉄錆びたようなものに。
 「兄さ…!」
 何か言いかけたキョーコが慌てて自分の口を塞いだ。
 え、なに今の。
 二人だけで通じ合ってるの?って言うか今のやりとりって、キョーコと変装した敦賀さんが一緒に外歩いたことがあるって意味?
 どういうこと。
 奏江が疑問で一杯になりながら成り行きを見守るうちにも、トップ俳優は社さんにスケジュールを確かめないとと笑っている。あざといまでに本気だ。
 「え、あの、でも」
 キョーコはキョーコで狼狽しているのだけれど、どうも先輩に逆らいきれずに陥落しそうな様子が見えた。
 ああ、ほら。
 「ありがとうございま、す?」
 しきりに瞬きしながら礼など言うので、蓮が愉しげに肩を竦めている。
 「どういたしまし、て?」
 どうも自分の知らない関係性をそこに嗅ぎつけ、新進女優は胸の底を危機感に焼かれた。
 キョーコの一番を、奪われる日がくるのだろうか。
 それはそれで仕方ない、どころか違うでしょ別にこだわるようなことじゃないじゃない。彼女はそう思おうとして、もやもやとした気分が晴れないのに溜め息をつく。
 なんてこと、と思った。
 キョーコバカは私もっぽいわ、もー。






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